教育としてのジャグリング

何故、シュタイナー教育では5年生でジャグリングを始めるのですか、とよく聞かれます。それは、5年生が肉体の成長における過渡期にあたり、ジャグリングがこの時期の子どもの課題に向き合う力をよく育んでくれるからです。

もともとシュタイナー教育は、子どもの成長に応じてカリキュラムが組まれています。5年生以前の小さな児童の体の特徴は、

活発なエネルギーに満ち溢れてあちこち飛び回る四肢
複雑な思考にはまだ至れず、ファンタジー的にまどろみ眠っている頭部
上記2点を持つことです。

一方で、思春期を迎える子どもは、因果関係を意識し論理的な思考を展開し始める目覚めた頭と、急な成長に伴って重さを増しつつ不相応にひょろ長くなった眠れる手足を持っています。

つまり、小さな児童から青年期の体へと変化する段階で、頭部と四肢の関係が逆転します。

成長の過程で頭と四肢の眠りと目覚めが交差し逆転する際に、その中央である胸に変化が現れ、この時期に心臓の拍動数や呼吸のリズムも少しずつ子どものそれから大人のものへと変化します。変化しつつある身体に、新しい呼吸と拍動のリズムを安定させることも大事な課題です。5年生のこの時期は、ある意味、変化が体の中心で交差し、バランスが一時的に整う時期とも言えます。そして増してゆく体重という重力と戦いつつ、身体に中心軸を作ることが大事になります。

シュタイナー教育では5年生の教育的テーマは「古代ギリシア」ですが、この古代ギリシア時代の教育的理想は体育教育でした。それには主に二通りの子どもの訓練法があったそうです。

一つは「舞踏的な教育」で、拍子・リズムを重視し、そこから人間の呼吸器官・血液循環器系に働きかけ、治癒的な力をももたらしました。ここでは四肢はもちろん、指先にまで注意し、働きかけていました。

もう一つは「競技的(訓練)的教育」で、人間の最も有能な資質を持つ器官を正しく位置づけ、精神発達にも作用を及ぼしていました。

すなわち、「肉体における有能な資質の訓練を通して自己の身体に完全な調和を実現し、かつ必要な精神と魂の調和を持つ」ことを目標としていたのです。つまり、5年生は身体を通して教育的に働きかけるうってつけの時期であるとも言えます。

個々の成長の在り方と意識が全体から個へと向かうこの時期に、5年生が為すべきことは、

頭は冷静に状況を観察しつつ全体を統一する。
呼吸を整え、規則正しいリズムを体に取り込む。
眠れる四肢を自らの意志で目覚めさせつつ、コントロールする。
体の中心軸を作る。⑤そして更なる困難に自ら喜び、チャレンジする。

…等々。ジャグリングはこれらのすべての要素を満たしてくれます。子どもたちは重くなったはずの四肢を忘れて動かし、夢中になってボールと格闘します。格闘する相手は先生でもなく、クラスの誰かでもなく、他ならぬ自分自身です。

この時に見せる子どもの集中力の凄まじさ!

シュタイナーは言います。「手足は働き、(略)頭はその動きを制し、静めている。(略)手足が不規則な動きをすると、心魂は不平を言い始める。」

ジャグリング・ボールを落として手足を自由に制することができなかったときの子どもの悔しそうな顔が、シュタイナーの言葉の正しさを証明している気がします。

木村義人(シュタイナー学園教員)


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