学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2025.05.28

保護者

開けてみないとわからない人生 ―藤野で見つけた“父親”の楽しみ方―

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.210 2025.5.28

「人生はチョコレートの箱。開けてみるまで中身はわからない」
映画『フォレストガンプ/一期一会』の名言が、今の私の心境を一番よく表している気がします。大きな決断を前に、不安と葛藤を抱えていた“かつての私”に、今だからこそ伝えたい言葉です。

私たち家族が藤野へ移住したのは、2019年3月。長女のシュタイナー学園入学をきっかけに、東京・国分寺での生活が人生の大きな転機を迎えました。きっかけは、妻の幼馴染から聞いたシュタイナー教育の話。妻の強い希望もあり、せっかく購入して間もない住宅を売却し、藤野での新生活を始めることになりました。

けれど、当時は期待よりも不安の方が大きかったのが正直なところです。
移住前は通勤や仕事との両立、田舎暮らしの不便さ——不安のタネは尽きませんでした。都内で勤務する会社員として、通勤時間はおよそ1.5倍。仕事と家庭の両立が本当にできるのか? 里山の暮らしに馴染めるのか? 日々の生活は不便になるのではないか? そんな気持ちが常に頭の中を占めていました。けれど、不思議なもので、実際に暮らし始めてみると、少しずつその不安は溶けていきました。転機となったのは「人とのつながり」でした。

学園の保護者の方々や地域の皆さんとの出会いは、まさに人生の新しい価値観や楽しみ方を教えてくれました。

たとえば、高等部の学園祭に出店するためにお父さん達で結成されたラーメン屋チームに参加。その楽しさと勢いのあまり地域のお祭「藤野まるまるマルシェ」にも出店しました。学園のお父さんや地元の方々と一緒に取り組む里山保全のサークル活動にも足を運ぶようになりました。子どもたちが生まれてからしばらく遠ざかっていた趣味のランニングや登山も再開。こうしたつながりから生まれた活動が、私の日々の活力になっています。

都内ではなかなかこうした機会に恵まれず、そもそも「まずやってみよう」と思うことも少なかったように思います。

コミュニティとの関わりは、イベントや学園行事を通じて自然と深まりました。人との距離が近い分、「やってみる」「参加してみる」ことへのハードルが低くなる。そんな空気が、私の考え方そのものをポジティブに変えてくれました。気づけば、「誰かのために自分の時間を使うこと」が、心を豊かにしてくれるように実感するようになっていました。

選択肢が限られているからこそ、暮らしの中に「工夫」や「楽しみ」「発見」を見出すようになります。以前は長く感じていた通勤時間も、今では読書や映画鑑賞、勉強の時間として活用できる貴重な時間になりました。コロナ禍を経て、キャリアとの両立を意識して働き方を見直したことも功を奏し、忙しい日々の中でも「自分のための時間」を取り戻せたような感覚があります。子どもたちも自然豊かな環境と学園での学びを思い切り楽しんでおり、その姿を見るたびに「この選択は間違っていなかった」と心から思います。

住めば都、案外どうにかなるものでした。
不安もあったけれど、思い切って踏み出したからこそ、今があります。
あのとき挑戦してみたからこそ、今の暮らしを大事にしていきたいと思います。

ライター/保護者 飯田光伸