学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.09.01

教育

学園通信 2021年9月発行号 

学園通信(2021年9月発行号)ができました。 (PDF版はこちら p.1&8  p.2-3  p.4-5  p.6-7)

<主な内容>
・特集:思春期を考える―揺れ動く子どもたちに寄り添うカリキュラム 
 座談会 増渕智×谷口恭子×加藤優子 聞き手 白田拓子
・One Day シュタイナー学園中等部  7年生のある1日
・FUJINO STEINER COLUMN 19期卒業生 上田樹一さん


【特集】座談会 思春期を考える―揺れ動く子どもたちに寄り添うカリキュラム 

増渕智(7年生担任)×谷口恭子(2年生担任)×加藤優子(3年生担任) 
聞き手 白田拓子

シュタイナー学園の教育の特色である発達段階に合ったカリキュラムを通して教員は子どもとどのように関わっているのか。中等部の担任を経験した教員と共に、思春期の子どもへの向き合い方について考えました。

白田 初等部高学年から中等部にかけてのさまざまな学びに多くの校外学習があります。外に出てエネルギーを発散させ、学びに向かうという意味もあると思いますが、どんな学びとつながっているのでしょうか。

増渕 6年生では「鉱物学」を学び、鉱物採取の校外学習に行きます。サンプルは教室でも見られますが、実際に現地に行って山の起伏を感じたり、専門家のお話を聞いたりしてから、実際に手で掘って探し当てると、子どもたちの喜びが増して目をキラキラ輝かせます。

白田 なぜ6年生で「鉱物学」を学ぶのでしょうか。

増渕 4年生で人間に近い存在である「動物学」を学び、5年生では少し人間から離れた「植物学」を、6年生では生命がなく、人間から遠い存在の「鉱物学」を学びます。地球の内部で鉱物が結晶化する様子が、前期思春期の発達とつながっています。骨が伸びるこの時期に「鉱物学」を学ぶと、子どもたちの心に響くのです。

谷口 カラフルな色の服を着ていた子どもたちが、無機質なモノトーンの洋服を好みはじめるのもこの時期です。歴史でいうと、残酷な古代ローマの時代を学びます。この時期の子どもたちは、外はクールに見えても、中は煮えたぎっているマグマと似ています。人間関係でさまざまな思いが噴出する時期でもあります。

白田 担任に対して反抗的な態度が出てくるのも6年生くらいですよね。

谷口 子どもたちにとって、1年生の時は担任は天使のような存在ですが、6年生くらいで先生に対する疑問を持ちはじめます。ものごとの因果関係がわかるようになると、人の欠点が目についたり、怒りの矛先が他人に向かったりするようになるのです。

谷口 6年生では星見合宿に行くクラスもありますよね。

増渕 教室でペガサス座の星座図を見てから合宿に行ったのですが、想像していたものよりもはるかに大きくて、みんなで「あれがペガサス座か!」と驚き、世界が広がったのを実感しました。

加藤 私のときは残念ながら雨で星は見えなかったのですが、夜の山を歩いたり、動物の鳴き声を聞いたり、いつもとは違う別世界を感じることができました。闇の体験をする間、いつもは騒がしい子どもたちが、とても静かだったことが印象的です。

白田 6年生の秋には歴史旅行に行きますね。

加藤 6年生は大変な時期で、何が起こるかわからない状態ですが、法隆寺ではみんなお坊さんの話をよく聞き、丁寧にメモしていました。小さいころから耳で聞いてノートに書く体験を積み重ねている、学園の子どもたちの学びの積み重ねがあらわれていましたね。

谷口 小さいときから素話を聞いてきた積み重ねもありますし、魂の成長に合った学びをしているので、子どもたちがカリキュラムにひかれるように導けば、よく話を聞きます。

加藤 歴史もそうですが、幾何学や物理は因果関係がはっきりしているので、この時期に求められる学びですね。

白田 7、8年生ではサバイバル合宿に行くことが多いですよね。

加藤 探検家に指導してもらいながら、トイレもなく宿もない山の河原で、タープを張って、川の水を浄化して、火を起こして自炊しました。この作業をこれまた全て雨のなかで行い、まさにサバイバルで心も身体も鍛えられました。

増渕 最低限のサポートをしながら、沢登りなどの「ちょっと難しいかな」ということに挑戦させ、自分で責任を持ってやり遂げることで、ありあまるエネルギーを発散させることができます。

白田 8年生ではカヌーとパラグライダーと洞窟体験を合わせた校外学習をすることが多いですよね。

増渕 大航海時代の学びと合わせ、カヌー合宿を7年生で行っていたこともありました。7年生で自力で航海するのは難しいですが、カヌーだったら、転覆しても自分で起き上がれるので。

谷口 この時期も、お話の力は大きいですね。6年生で古代ローマの時代を学び、因果関係が見えはじめて、一人ひとりの人間性が見えてくるころです。7年生は、孤独感を感じるころ。8年生は日本史や世界史で学ぶ革命の時代の話から癒しや勇気を与えられ、何かを変えたいというエネルギーが噴出してきます。

白田 国語では『平家物語』を7年生で、『竹取物語』を8年生で学ぶことに最初は違和感がありましたが、7年生には軍記物の『平家物語』のリズミカルな和漢混交文が合っているし、落ち着いてくる8年生だからこそ雅な作り物語である『竹取物語』が読めるのだなと、今は納得しています。

増渕 7年生では源平の戦いを学ぶのですが、意外と女の子も壇ノ浦の戦いや女武者の巴御前など、心の火を燃やす場面に共感する子が多いのに驚きます。

白田 中等部の集大成といえば、8年劇ですね。

谷口 声を出さない、歌わないなど、舞台で練習をはじめる数日前まで全く仕上がらなかったのですが、急にやる気が出てそれぞれの持ち味が生きてきて、当日は素晴らしい仕上がりになりました。劇をやり遂げる子どもたちに、力を感じますね。

増渕 主役の子が行き詰まってしまって本番直前に休んでしまうという出来事もありました。また全然セリフを覚えようとしない子と膝をつきあわせて話してみると、自分は主役のような役ができるはずだと悩んでいたので「これは大切な役だよ」と伝えると、ぐんと変わったこともありました。

加藤 私のクラスは最初からやる気満々で、自分の力を出したいというエネルギーでいっぱいでした。個人練習にもすごく意欲的で、衣装や音楽を含めて、素晴らしい仕上がりになりました。「美しく幻想的な世界になるように」ということは何度も言いましたが、彼らはイメージする力を培っています。これまでの芸術的な学びが全て生きているのを感じ、当日の子どもたちは、本当に美しかったです。

白田 はじめて8年劇を見たときに、「中学生が美しい」という意味がよくわかりました。それぞれの子どもの本質があらわれ、内側が輝いていますよね。8年劇が終わるといよいよ担任の先生とお別れする修了式ですね。

加藤 修了式に、「先生がやめてしまうんじゃないかと思ったことがあったけど、先生はやめなかった」と言って泣いていた子がいました。もちろん大変だと思うこともありましたが、必ず良くなると信じて待つ。不思議なつながりですが、この仕事には、こんな特別な幸せがあります。彼らとだからこんな思いが持てたのだと思います。

白田 最後に、思春期のお子さんを持つ方にアドバイスをお願いします。

増渕 脳科学的に見ても、ホルモンが出てきたりして、本人も変わり目に慣れるのに必死。イライラもするし、落ち着かないし、心の状態にもあらわれてきます。まともな感覚で対応しようと思うと、こちらがまいってしまいます。自分の思春期のことは忘れてしまっていますが、思い出すことも大切です。今思えば、口うるさく干渉はしませんでしたが、母が温かくて美味しいご飯を、毎日同じ時間に出してくれたことは本当にありがたいことだったと思います。「困ったことや言いたいことがあったらいつでも聞くよ」という雰囲気を作るのも必要ですね。

谷口 爆発した思いが出たときに、善か悪かの判断をするのではなく、ただ聞いてほしいのだと思います。それに大人がどう対処しているのかを、子どもたちはしっかり見ています。どこかで、「自分のために言ってくれているのだ」「人間としてどうするべきなのか」ということは感じています。優しくされたことはちゃんと覚えていますので、温かい言葉をかけることも必要ですね。また、大人の自分自身がこの頃に感じていた同じ思いを共有することもできます。未来は優しい大人になれるのだろうと信じて、毎日やっていくしかないですね。

加藤 反抗している最中、実は子ども自身も傷ついていることもある。そこに気がついてあげること、そして叱ったとしても、「大丈夫だよ。あなたは変わっていけるよ」と思っていいてあげることが大切ではないでしょうか。

白田 思春期の子どもたちは大変なこともありますが、学園の12年生の成長した姿を見ると、どのようなプロセスでも「大丈夫」と思えますよね。これが1年生から12年生までの成長を見守ることができる一貫教育のいいところですね。

 

増渕 智(Satoru Masubuchi) イギリス・エマソンカレッジでシュタイナー教員養成講座を修了後、帰国。東京シュタイナーシューレ(現シュタイナー学園)でクラス担任を務めた後、NPO法人藤野シュタイナー高等学園及びシュタイナー学園高等部で数学担当。現在、シュタイナー学園7年生クラス担任。

谷口 恭子(Kyoko Taniguchi) 2000年に渡米。アメリカ・サクラメントのルドルフ・シュタイナーカレッジで、基礎コース、教員養成コース受講、2002年5月卒業。2003年4月より学校法人シュタイナー学園にて8年間の担任として勤務。現在、シュタイナー学園2年生クラス担任。

加藤 優子(Yuko Kato) 大学時代からシュタイナー教育を学び、企業に勤務しながら土曜クラスに関わる。教員養成講座修了。2007年度からシュタイナー学園に関わり、現在、3年生クラス担任。

白田 拓子(Hiroko Shirata) 大学でシュタイナー教育と出会い、国内のシュタイナー教育教員養成講座で学ぶ。土曜クラス担任を経て、現在はシュタイナー学園高等部国語担当。


One Day シュタイナー学園中等部 7年生のある1日

8:10~登校

学園へはJR藤野駅からバスで15分。山道の通学路を片道40分ほどかけて歩いて登校する生徒も。おかげで足腰は丈夫です。登校後は教室で本を読むなどして授業が始まるのを待ちます。

8:30 エポック授業/国語

朝の2時間弱はシュタイナー教育独自のエポック授業。笛を吹いたり、詩を唱えたりとウォーミングアップしてから、主要科目をしっかり学びます。今日のエポック授業は国語。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」七五調のリズムを基調にした和漢混交文で平家一門の栄枯盛衰が描かれる『平家物語』が、思春期の子どもの心に真っすぐ届きます。

10:15 中休み

軽食を食べるなどして、その後の専科に備えます。

10:35 第1専科/英語

7年生になるとそれまで会話や聞き取り中心だったコミュニケーション英語に加え、英文法を体系的に学び始めます。8年生では恒例の「英語劇」発表も控えています。

11:25 第2専科/オイリュトミー

身体を用いて言葉や音やフォーメーションを表現するオイリュトミー。体が重くなるこの時期は教員への反発が強くなりますが、12年生で卒業発表をするころには、ため息が出るほど美しい動きをするようになります。

12:15 昼休み

お弁当を食べたら、体育館でバスケットボールをしたり、図書室で本の貸出をしたり…最後の15分間は教室や廊下の掃除をします。

13:05 第3・4専科/工芸

5年生から続いている工芸。今は木彫りで1枚の板から皿を彫り出します。内面と外面を削り進める作業は、思春期の外的な目覚めと内面的な心の揺らぎとのバランスを取ります。

14:45 第5専科/HR

今日のテーマは学園祭での7年生の催し物。それぞれが自分のアイデアを主張して徐々にヒートアップ。きっと個性豊かな楽しい催し物になるでしょう。

15:35 下校

放課後は自宅で課題をする生徒、習い事に行く生徒、ライアー、コーラス、オーケストラ、バスケットボール、運動クラブなどのクラブ活動に参加する生徒などそれぞれの時間を過ごします。

※ご紹介したのは一例ですので、内容は変わることもあります。


FUJINO STEINER COLUMN 19期卒業生 上田樹一さん(リンク)