学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2018.07.24

暮らし

藤野の暮らし その2

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.39  2018.7.24

シュタイナー学園では先週末、日々の学びを紹介する「月例祭」が無事終わり、夏休みに入りました。前回の「その1」で、ここ藤野での豊かな暮らしを紹介していたので、今回は一母親であるわたしがこの藤野に来て、そしてシュタイナー学園に子どもが入学して、変わったこと感じていることを書かせてもらおうと思います。

急転直下の展開で、藤野での暮らしは始まりました

藤野に越してきて1年と4ヶ月が経ちました。娘が年長さんの秋、我が家は突然シュタイナー学園の入学を考えだしました。もともとシュタイナー教育に興味はありましたが「うちには無理だろうな」と諦めて、仕事もしながら娘は都内の認可保育園に通っていました。ランドセルも用意し、学区の学校の面談、という時期になって、このまま地区の学校に行くのは娘にとっては苦しいことなのでは?という思いが止まらなくなり、娘の個性をそのまま育ててくれる環境というところでシュタイナー学園が思い浮かびました。

もうすでに一次の試験は終わっていて、それでも諦めきれず問い合わせをしたところ、幸運にも二次募集があることを教えてもらいました。二次の試験に応募し入れるかわからないまま藤野での家探し。入学が決まり、お腹にいた息子の出産を挟み、なんとか家の契約を終え、引っ越し…と怒涛の数ヶ月間。急転直下の展開で、藤野での暮らしは始まりました。

おおらかでのびのびした姿に、肩の力が抜けていったのをよく覚えています

娘のために、と決めた学園と藤野での暮らしでしたが正直不安もありました。シュタイナー教育に憧れは抱いてはいたものの、慌ただしい日々の中で理想とは程遠い子育てをしてきたからです。学園のお母さんたちの中に入れるだろうか…子育ての息抜きといえばカフェでお茶をしたりすることだったわたしが田舎暮らしに耐えられるだろうか…。そんな揺らぎはすぐに吹き飛んでいきました。

引っ越してきた最初の日、片付けに追われ生まれたばかりの息子は泣きっぱなし。その声を聞いたお隣さんが「抱っこしていてあげるよ」とやってきてくれたのです。そのまま本当に1時間くらい抱っこしていてくれ、片付けにあきた娘を連れ出し、庭の蔦でリースを編んだりおやつをくれたり。あまりの親切に驚いていると、夕方頃には「学園で子供が同級生になるんだよ」と近所に住むご家族が柑橘をいっぱいもってやって来てくれ、これまたびっくり…。

家から出てみると、近くの空き地で子どもたちが集まりかけまわって遊んでいました。そのなんともおおらかでのびのびした姿に、肩の力が抜けていったのをよく覚えています。 近所の人と自然な繋がりがあって、子どもが自由に飛び出していける。そんな環境で生活してみて、今まで子育ては家の中で完結させなくちゃいけないと思い込んでいたことに気づきました。そんなつもりは全くなかったのに、外で迷惑をかけないように、子どものすることは親の責任だから家族で解決できるように。子どものできないことや自分のできないことが気になって、無意識にぎゅっとぎゅっと力を入れてずいぶん苦しい時もあったなあと思い出します。

子育てをがんばらなきゃ、ちゃんとしたお母さんでいなきゃ、という頑なだった気持ちがこの土地、そして学園の先生と保護者のみなさんの間に流れている「みんなで子ども見守る」という感覚に触れる中で、予想外にほぐれていきました。どんなに頑張ろうとしても悩みがつきなかった子育て。自分の弱さや脆さも共有しながら、子どもを育てていいんだ、と思えたことは母であるわたし自身がここに来て救われ、変わったことでした。

わたしの知らない間に友達も、できることもどんどん増え、自分に自信を持てるようになり、逞しく成長しています

無事に学園に入り2年生となった娘は、引っ込み思案で極度の恥ずかしがり屋さんですが、ゆっくり待ってくれる先生とクラスメイトの中で少しずつ自分を伝えることを学んでいます。入学前はメディアに触れ生活していたので、変化に対応できるかと心配していたのですが、こちらが驚くくらいあっという間に新しい生活が彼女の当たり前になりました。

ひとつひとつの学びに夢中になりながら、小人さんを信じ(クラスでは小人さんがいろいろなことをしてくれます)家でも小人さんに手紙を書く毎日。そして生き物が大大大好きな彼女にとって、藤野は天国。車をちょっと走らせればヤギも羊も馬もいる。鶏を飼っているお宅から卵をもらったり、先日は散歩帰りに近所の人から生まれたばかりのメダカの稚魚をもらってきたり。わたしの知らない間に友達も、できることもどんどん増え、自分に自信を持てるようになり、逞しく成長しています。 都心にでることも多い仕事の夫はしんどいこともあるようですが、鳥の声がうるさいくらいに響く朝の時間や、山に沈んでいく夕日を見るたび「しあわせだなあ…」とつぶやいて、彼もここでの暮らしを満喫しています。

1歳の息子はこの3月に開園したシュタイナー学園付属園の「シュタイナー保育園こどもの家」に通わせてもらい、わたしは仕事にむかう時間を持たせてもらいつつ、理想的な環境の中過ごせる息子を安心して送り出せています。学園の隣のドーム型のちいさな保育園。そこにリュックを自分で背負って張り切り登園する息子の姿には毎日ほっこりしてしまいます。

諦めないで踏み出してみて、本当によかったと思うのです

そんなふうに毎日を過ごしているとここに来る前に懸念していたお茶をするお店があんまりないのも、電車が1時間に2本しかないのも、バスもタクシーも全然来ないのも、取るに足らないことだったなあと思います。 近所をかけまわる娘を見るたび、ご近所さんと何気なく話したり野菜を交換したりするたび、あの時「うちには無理だろうな」と諦めないで踏み出してみて、本当によかったと思うのです。都内に暮らす友人に「引っ越して暮らしはどう?」と聞かれるたびに、迷いなく「最高」と答えてはちょっと驚かれるのですが、心から。藤野の暮らしは最高なのです。

ライター:中村暁野