2025.12.10
山の色、風の薫り 玄関しつらえ
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.224 2025.12.10
名倉校舎の玄関は、保護者有志による玄関しつらえ係によって、外の世界を表し季節を感じられる「季節のテーブル」として整えられています。玄関の一角に布を掛け、季節や祝祭の小物・自然物をしつらえます。
「季節のテーブルは、外と内をつなぐひとつの世界。子どもが、自分ともうひとつの世界を感じられるように」
この言葉は、係を支えてくださっている大嶋先生に教えて頂きました。係の先輩方には、「山の色を見て布の色を決める」と教わりました。季節によって変わる山の色、実際に目に見える色だけでなく、風の色を感じて布で表します。
春は、長い冬を終えやっと芽を出した植物たちの新緑の黄緑色や、暖かくなりはじめた風のピンク色の布。新しく始まる生活、子どもたちの初々しさにぴったりです。だんだんと緑が濃くなるころになると、羊毛で作ったつばめたちを枝につるします。そのうちに雨が降りはじめ、梅雨に入ると水色や紫色を足し、カタツムリやカエルが現れます。梅雨が明けるとお日さまがまぶしく照り輝く夏の明るい黄色になり、ひまわりを飾り、夏の終わりには楽しかった思い出として砂でお城を作ります。砂の城作りはみんな子どもに戻ったように楽しんでいます。
秋の気配がしてくると落ち着いた黄色やオレンジ色になり、南瓜やイガ栗を置き、秋深まって真っ赤に変わり、赤や黄色の落ち葉やどんぐり、とちの実、くるみなどたくさんの実をおいていきます。そして冬のアドヴェントの季節。すべてが闇の青になります。年が明けてお正月は紅白に装い、お祝いが過ぎると、雪の真っ白に覆われ、雪うさぎたちが飛び跳ねます。白い布の下には温かい土の茶色、さらにその下には芽を出すのを待つ植物の黄緑色を重ねています。
白い時季が終わると白色を剥いで茶色が現れ、木の根の精霊“ねっこぼっこ”たちが目を覚まします。春めいてくると新緑の黄緑色にして、花の妖精“春ぼっこ”たちが現れます。布の素材は、張りと温かみのある綿と柔らかく美しく光るシルクを使い分けます。子ども達は玄関を通る度に様々な季節と素材に出会います。
祝祭もしつらえに大きく関わってきます。春はイースターにちなんで卵と鶏、ひよこ、うさぎを飾り、夏のヨハネ祭には、ヤシャブシで作った蜂が飛び交い、秋のミヒャエル祭には剣のイメージのとがった葉を持つ草花、鉄鉱石と天秤、冬のアドヴェントには星、天使、マリアとヨセフ、羊たち、水晶、モミや百合、お正月には独楽や毬、凧、南天や葉ボタンを飾ります。
季節の草花は、自宅の庭から持ち寄ったり、ランドスケープ係の方達が四季折々に咲くように植えてくださっている花を使います。花のない寒い時期には、小さく芽を出している球根を鉢に植え、暖かい春を待ちます。芽は少しずつ大きくなっていき、春になると美しい色の花を咲かせます。
しつらえを整えるのは朝の時間です。登校後の玄関には教室から笛の音や歌声、詩を唱える子どもたちの声が優しく響いてきます。その中での活動は幸せな時間です。学校での毎日の生活が整い、充実した一日となるよう思いを込めてしつらえています。
しつらえた後も毎週手入れをします。布をきれいにし、花と水を替え、少しずつ変わっていく季節に合わせて常に良い状態にしています。子どもたちには見えない活動、移り変わる季節をそこに作り上げます。整ったしつらえは、静かに美しく光って見えます。
文/保護者 鶴賀 恵