学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.03.15

保護者

12年の時が育んだもの

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.153 2023.3.15

借りてきた猫たちが、えさを待つひなのごとくぽっかり口を開け、一斉にこちらを見ている。在校生、保護者の皆さんの前で一列に座っているあの時の子どもたちを表すなら、そんな感じではないでしょうか。春の肌寒さが漂う体育館。私たち25期生は震災の年に入学しました。新しい土地へ引っ越すことができるのか、本当に入学式は行われるのか…。抱いていた不安。あの時から12年。距離を持って思い返すにはまだ至りませんが、振り返るとするなら、何が見えてくるでしょうか…。
 
ある日の帰宅中の出来事。我が家の隣家をふと振り返った娘。「“鳥”って書いてある‼」。表札が目に入ったのでしょう。又ある時は、高速道路からの流れる景色を目にし、「ことり…(実際はニトリ)」とぼそり。一瞬の「?」と笑い。平仮名とカタカナのミックス読みのことは置いておいたとして(笑)、先生から教わったことはすぐそばにあり、自分と世界が繋がった驚きと喜びに溢れる娘の姿を見、学ぶことは世界を知っていくことなのだとあらためて知らされたことを思い出します。

学びは学業を介してのみではありません。子どもたちの関係において、困りごとや悩みは当然出てきます。当時、担任の先生が話されていたことがあります。それは「8年間の中で、必ず誰もが主役になる」ということです。良い主役だけではありません。皆成長の中でそうした時を持つのだと。大人として、目の前にいる子どもたちがひとりの人間としてしっかり立てるために、今たくさんの試行錯誤を積み上げている過程にすぎないと心にとめ、子どもたちの成長を見守ることの大切さを、重ね重ね教えてくださいました。

こうした見守りの中、笑い、けんかし、8年というひとつの区切りを終え、高等部へ進んだ子どもたち。お互いの関係性をますます進化させていきました。個々の意見の違いを、目的のためにどう集約させていくか。徹底的に話し合う姿勢は、12年生という最高学年時には頂点を極めたのでは? と表してよいほどだったのではないでしょうか。

12年という最後の学年で取り組むプロジェクト。そのひとつである卒業演劇。最後に自分たちはどんな演目に取り組むのか、話し合いのルールは、全員が納得すること。どれだけ時間をかけて話し合ったのでしょう。お互いどれだけ意見を伝え合い、聞き合ったのでしょう。上演された卒業演劇は、そのことを物語っていました。自分の意見を相手に伝えること。相手の意見を聞く耳を正しく持つこと。それは大人でも非常に難しいことです。

手仕事の授業を通してひとつの作品を作り終えたある日。先生は娘にこう言ったそうです。「自分が仕上げたいと思い描いた形を、どうしたら実現できるか。悩み、考え、試行錯誤して作り上げていくその過程がとても大事なんだよ。よく頑張りましたね」と。帰宅するや否や、笑顔でその事を教えてくれた彼女を見て、私の中に思いが湧きあがった感触を、今でも思い出すことが出来ます。正解のない答えに取り組むことは、個々に異なるプロセスを通ることです。他者のプロセスを通し、自分を見つめる。そこにお互いの存在を認めるからこそ、他者も自分も大事にすることができる。そうあれるよう、どの先生方も支えてくれていたことを、子どもや何気ない場面を通してひしひしと感じてきた12年間でした。
 
12年間繰り返していた共にする日々が、卒業を境にすっとなくなってしまうのはとても不思議であり、又、得も言われぬ不安を伴うものでしょう。でも、それまでの時間がこれからへの希望の火種となり、支えとなり、背中を押してくれる事と思います。生きることの喜びを、子どもたちへ伝えてくれたシュタイナー学園に、本当にありがとうという気持ちでいっぱいです。

ライター/保護者 相見千昌