2026.02.04
コーラスの持つ力を信じて ―声と声が響き合う体験がもたらしてくれること―
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.228 2026.2.4
高等部の音楽の授業では、9年生から12年生まで4学年の生徒たちが、合同でコーラスに取り組んでいます。年に3回行われる学期祭において、高等部コーラスの歌声を聴いてくださったかたもいらっしゃることと思います。
「歌う」とは、まさに呼吸そのものです。
高等部の子どもたちが全員で「呼吸を合わせる」とは、どんな体験なのでしょうか。
コーラス(合唱)をつくることは、人間の声と声との響き合いの中から音楽を紡いでいく作業だと捉えています。響き合いとは、お互いの声を聴き合うこと、つまり呼吸を感じ合うということです。そのためには、まず自分を開くこと、そして相手を受け入れることが求められます。その響き合いの先に広がった豊かな音色や一瞬のきらめきを共有できた時、お互いがとても深いところで繋がれたような感覚になります。
逆に、無意識にも自分を開くことができていない時、いくら鳴っている音を聴いても、いくら相手の声を聴こうとしても、ほんとうに美しい調和は生まれず、満たされた感覚からは遠ざかってしまいます。
声はいうまでもなくその人から発せられる唯一無二の響きであり、歌声はその人の内面の響きですから、共同作業であるコーラスには人間模様がありのまま反映されるのです。
したがって、95人いたら95通りのその時の気分や調子、また気象や空間の環境も異なり、一瞬として同じ調和(ハーモニー)は生まれないのです。そう考えると、同じ曲を歌っていても、いつもいつも新鮮な発見があり、私は子どもたちの「今」を聴き逃したくないという思いに至ります。
そして、子どもたち自身も、いつも新しい調和体験を繰り返しながら、一瞬の変化やその感覚の違いに気がつけるようになっていきます。
つまりコーラスを通して、今の自分自身やコミュニティ全体の内面に向き合う力が、ゆっくりと着実に育まれているということではないでしょうか。
また、オイリュトミー(※)や絵画など、さまざまな芸術体験を通して培われた呼吸の合わせ方には、多くの可能性が秘められていると感じています。
例えば、はじめはバラバラだった歌声が自然とひとつの響きにまとまってくる時があります。いったい子どもたちの中で何が起きているのだろう、と思いを馳せます。
まるで水彩のぬらし絵のように相手の声に自分の声を混ぜていくような感覚、あるいは大きな流れの中で互いに導き合うような感覚、息のフォルムが見えるような感覚、模倣的な音程感覚…。
子どもたちの歌声に心がふるえるような驚嘆を覚えることがあります。
その他、高等部コーラスならではの学びとしては、歌だからこそできる多様な言語によるリズム的な発音体験、また楽曲の様式感や精神性、歴史的背景や歌詞の解釈などを知ることで、異なる文化や普遍的な価値観への理解をより深めることに繋がります。自らが歌い、仲間とハーモニーを分かち合うという行為を通して学ぶことによって、単なる知識だけにとどまらない潜在的な糧となって、じわじわと年月をかけて生かされていくだろうと信じています。
一瞬一瞬の響きが、かけがえのない尊い存在だということをこれからも伝え続けていけたらと願っています。
※オイリュトミー:シュタイナー学校の芸術教科で、言葉や音楽を身体を通して表現する運動芸術。
文/教員 小島伸子