学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.06.09

教育

12年劇が育む人間形成~前編~

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.108 2021.6.9

シュタイナー教育の様々な特徴のなかで「演劇教育の重視」というのは、語られることの少ないものかもしれません。8年生(中学3年生)、12年生(高校3年生)による劇場での本格的な公演だけではなく、初等部の劇遊びや神話劇、中等部の狂言、英語劇など、様々な形で日々教育のなかに「演じる」活動が取り入れられています。

通常の演劇と違うのは、その用い方が年齢ごとの発達観に即していること、発表のクオリティより、作り上げていくプロセスが重視され、子どもの成長を助けることが目的である点です。だからこそ演劇の訓練を積んだプロではなく、教員が指導することが大切なのだと思います。シュタイナー学校の教員には演劇的な素養がずいぶん求められます。学園の保護者も教職員も、クラスと教員の個性に沿った様々な演劇発表を、楽しみにしています。

12年劇はこうした活動を経てきた生徒たちにとって、文字通りの集大成です。17〜18歳ともなると、演技力や衣装・道具などの製作技術も高まり、見応えのある劇になります。それでもなお、演劇がプロセスを重視した教育活動であるという点は変わりません。ただ、他学年の劇とは異なる点もたくさんあります。

それまでの劇では、演目の決定や配役に当たって教員の影響力が大きいのですが、12年生では、かなりの部分が生徒の話し合いで決定されます。それは簡単なことではなく、配役や演目で揉めなかった学年はほとんどないほどです。一旦決まってからも、「どうしてもこの劇をやりたくない」、「選ばれなかったがこの役をやりたい。もう一度検討してもらいたい」など食い下がる生徒もしばしば見られます。

決定のプロセスをはらはらしながら見守るなかで、「この子たちは、教員である自分を超えていった」と感じることがよくあります。話し合いが硬直し、当事者が辛い思いをしているのを見かねて、「そんなに揉めるなら、ダブルキャストにしては?」など、小さく提案してみても、小気味良いほど顧みられません。生徒たちは粘り強く話し合いを繰り返し、その結果泣かなければならない人がいても、皆が傷だらけになってでも、最終的な結論に自分たちで到達します。クラス替えなく一緒に過ごし気心の知れた同士、ぎりぎりのところで信頼が発動するのだと思います。

ライター/教員 浦上裕子