学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2022.01.05

教育

実践力を育む~9年 農業実習~

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.123 2022.1.5

シュタイナー学園では高等部に入ると、教室を離れて一定期間、集中的に社会で働く実習のカリキュラムがあります。まず9年(中学3年)の農業実習では第一次産業である農業で生産物をつくる体験をし、続く10年(高校1年)の職業実習では生産物を加工する第二次産業の仕事を体験します。そして11年(高校2年)の福祉実習では保育園や障がい者・高齢者の施設などで福祉の体験をします。そのほかにも、測量実習(10年)や航海実習(11年)などがあります。今回は9年生の農業実習の様子をお伝えします。

歴代の9年生は、熊本の「ぽっこわぱ耕文舎」、北海道の「ソフィア・ファーム」などでも農業実習をしてきましたが、今年は4回目となる宮崎県綾(あや)町にて、厩(うまや)をリノベーションした古い合宿所に2週間寝泊まりしながら、町内の農家で実習させていただきました。緊急事態宣言等も解除された11月、PCR検査で全員陰性を確認し、私たちは出発しました。

宮崎県綾町は、1960年代から有機農業と照葉樹林の保全を掲げて町おこしを図り、2012年に町全域がユネスコエコパークに認定された、いわば”有機農業の町”です。町の中心にある農産物直売所「綾手づくりほんものセンター」には、毎朝たくさんの町内産有機野菜が納品され、有機農家層の厚さに驚きます。

その中でも今年お世話になった農家は、高炭素循環農法で少量多品目栽培にとり組む「はたけとくらし」、有機農法と慣行農法の併用により経営面での農業のあり方も追求する「なかしま農園」、ぶどうを無農薬栽培してナチュラルワインを手作りする「香月(かつき)ワインズ」、オオカミ犬を導入して獣害を防ぎ、大規模な自然農法による多品目栽培と加工を手がける「けんちゃん農園」、この4か所でした。

生徒たちは毎朝お弁当を持って班ごとに農家へ出向き、夕方まで農作業をします。行く農家によって、あるいはその日によって、栽培する作物も作業内容も異なるため、夕食後その日の仕事内容や感じたことなどをクラスで共有する時間を持ちます。また日々の学びを一人ひとりノートにまとめていきます。

出荷用ダンボールを組み立て続けた班もあれば、暑いビニールハウスの中で一日中きゅうりを収穫した班、ぶどうの枝を剪定し焚火で焼き芋をした班、草刈り機で大豆を刈る後ろから腰をかがめて大豆拾いの往復を繰り返した班…。寒風と雨の中での草取りがつらかったという子もいれば、大豆の収穫で舞い上がる草ぼこりにむせた子、キャベツのいも虫を何日も潰し続けているうちに平気になった子、「規格品」のサイズに満たないきゅうりを取ってしまい叱られた子……。

つらい農作業と慣れない集団生活で疲れがたまり、農家へ向かう車の中が重い空気になる朝もありましたが、それを乗り越えていく子どもたちの姿には不思議な力を感じざるを得ません。一人ひとりの中に育まれる力と、クラス全体で乗り越えていく力。

実習最終日の夕方、お世話になった農家さんを招いて「お礼の会」を催しました。前半は班ごとの発表です。寸劇仕立ての作業描写やインタビュー形式の問答、思いの丈を綴った俳句など、班ごとに工夫された出し物が披露され、厳しかった農家さんほど目頭を熱くされている姿には胸を打たれました。そして後半の立食パーティで、子どもたちと入り乱れて熱く語り続ける農家さんたちを見ていると、この実習がもたらした大人たち=社会への贈り物にも気づかされます。

ライター/職員 佐々木直子