学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2019.06.05

美術・工芸 -「観ること」・「形づくること」-

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.60  2019.06.05

5年生から始まるシュタイナー学園の工芸や美術の授業は、一見芸術とはあまり関係ないと思われる理科や社会などの教科と深く結びつき、低学年の頃の散歩や外遊びにおいて観察された自然の変化なども、学びの土台となっています。

また、オイリュトミーや手の仕事で練習してきた身体や手、指の使い方や動きを基に、自らの手で作りだす喜びと共に作品を制作していきます。制作過程の中で子どもたちは、粘土や木、金属などの素材の性質を捉え、変化していく「形」を見出し、作品を創りあげてゆくのです。

5年生の授業は、自分で扱える粘土の量を知ることから始まります。子どもたちは粘土の塊を両手や片手に持ち替えながら、自分にちょうど良い粘土の大きさを見つけます。それは手の大きさによるのではなく、子どもたちがこれまでどのような体験をしてきたかによって決まります。

粘土の大きさが決まると、形を一つにまとめ凸凹をなくしていきます。この時におにぎりを握るように手全体で粘土を包んだり、両手の間でコロコロ丸めるのではなく、指の腹でそっと粘土の表面に触れながら凸凹を無くしていきます。目を閉じて、指先だけの感覚で表面の凸凹を感じながら形を整えることも行います。すると「あ、凸凹がはっきりわかる」「なんだか凸凹が大きく感じる」と、子どもたちから声が上がります。視覚が閉ざされることによって、指先の触覚からよりはっきり感じ取ることができるのです。

しばらく手にしていた粘土の塊は、少しずつ自分の一部になり愛おしくなってきます。そこで〈かわいい子には旅をさせよ〉とばかりに、子どもたちが輪になって手から手へと『自分の形』を回していきます。他の人の手によって形作られた粘土を手にすると直ぐに「あ、冷たい」「温かい」「重い」「つるつるしてる」「湿ってる」など、自分の粘土との違いに気がつき、一つ一つの形が全て違っていることを知るのです。

それは、子どもたちが他の人の粘土に触れることによって触覚や熱感覚、平衡感覚を通して、自分と他者との違いに気づくことのできる瞬間です。誰が上手とか下手ではなく『一人一人違う』『違って良いのだ』ということが子どもたちの体験となっていくのです。

 美術・工芸の授業で行われることは「何を」という点においては、他の教育で行われていることと同じような内容もあると思います。しかし「どのように行うのか」というアプローチの仕方は異なります。それは『何のために行うのか』という根本的なところに違いがあるからです。子どもたちから「今日は、何を作るんですか?」とよく聞かれます。絵を描き、粘土や木で作品を作るのですが、実はそれが目的ではありません。

シュタイナー教育における美術や工芸では、作品を制作していくプロセスの中で、自然や世界は生成と分解を繰り返し、常に変化していることに気づき、『観る力』を育てていきます。自然界の中で成長する有機的なものは一つ一つが異なり、それぞれの特質を持っています。子どもたちは、生命あるものが唯一無二の存在であることを体験によって知り、人間をも含む自然界の生成のプロセスを作品の制作を通して追体験していくことになります。この体験は、子どもたちが成長していく中で自然・世界と、自分との調和を見出す助けとなるでしょう。

その後の授業の中では、毎回始まりの形としての球体を粘土で形づくった後に、外からの力によって形を変化させていきます。初めは球体の凸面に、いくつかの凹面(へこみ)をつけて形を分岐させていきます。その変化はとても簡単な在り様から始まり、次第に複雑になっていきます。そこから動物や人間の形が現れてきます。まるで細胞分裂をしながら生物が成長していくかのように。

高等部になると、二つの対峙する力が出合うことによって形というものが形成されていくことを学び、その二つの力の間に生じる緊張感を表現していきます。

以下の詩は、ゲーテが自然界における有機体の変化していく有様を表現したもので、私たちが自然と向き合うときの姿勢を示唆してくれています。

 ああ それはげに歓びにみちていた

 いくとせも前 ぼくは夢中になっていた

 創造し 生成してゆく自然のすがたを

 探り 知ろうとただひたすらに試みて

 さまざまなすがた形をとるものも

 つくづく見れば永遠にひとつのもので

 大は小さく 小は大きく

 万物は得手勝手にふるまって

 たえまなく変化しつつも 己を固持し

 近づいては遠ざかり 遠ざかっては近づいて

 みずからをつくりあげては またつくりかえてゆく

 自然よ いまもなおぼくはお前のすがたに目をみはる

                      ゲーテ

つづきは、また今年度の後半にお伝えします。

教員/ライター 大嶋まり