学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.09.01

教育

学園通信 2023年9月発行号 

学園通信(2023年9月発行号)ができました。 (PDF版はこちら

<主な内容>
・特集/対談:「シュタイナー学校の先生」という仕事
・シュタイナー学園の先生たちに聞きました~先生への道のり~
・FUJINO STEINER COLUMN 13期卒業生 鹿俣智裕さん
・シュタイナー学園教員養成講座 開講によせて


【特集 / 対談「シュタイナー学校の先生」という仕事

シュタイナー学校の先生になるには、どんな資質が必要?
シュタイナー教育を詳しく知らないけれど、大丈夫?
「子どもと授業を作るのが楽しい!」というシュタイナー学園の先生に話を聞きました。

帖佐美緒先生(6年生担任)
木原希先生(保健体育専科担当教員)
馬場愛子先生(1年生担任)

インタビュアー/柳田真樹子(事務局広報) ライター/越野美樹

――シュタイナー学校の先生になろうと思ったきっかけを教えてください。

木原:保健体育の教員を目指して大学で勉強し、公立中学で1年間働きました。それまでシュタイナー教育を全然知らなかったのですが、ご縁あってシュタイナー学園を見学したとき、生き生きとした先生方の姿に共感したのです。

帖佐:木原先生が模擬授業をされたとき、教員がいくつか質問をしました。その答えを聞いて「本質を感じられている」と教員がみな感動しました。

馬場:木原先生は「これをやらなくてはいけない」ということよりも、目の前の子どもたちを見て感じ取り、その場で行動できる方ですね。

――シュタイナー教育はノウハウから入りがちですが、そうではないということですね。普段どんなことを心掛けていますか?

木原:赤信号を渡らないこと、人の悪口を言わないことです。常に心掛けていないと、子どもたちの前で出てしまうので。

――子どもは先生の背中を見て育つと言われますからね。馬場先生はどういうきっかけで教員になられたのですか?

馬場:大学の時に中国語の響きの美しさに魅了され、中国の企業で働いた経験から、4年前に学園の初等部の中国語専科講師になりました。娘が学園に在籍していて、親も教育者の一人という思いで学んでいたものの自信はなかったのですが、教員のみなさんに「みんな最初は初めて」と言われて踏み出せたのです。またシュタイナーの著書『一般人間学』の中の「今ここに」という言葉のように、「今ここから進めばいい」と思い、今年度からは担任になりました。目の前の子どもたちと一緒に授業を作っていけることが、本当に楽しいです。

――心がけていることはありますか?

馬場:まっすぐに立つことです。子どもたちにも、まっすぐ立って生きていってほしいです。

帖佐:私は「朝、教室のドアを開けたときに、個人的なものはすべて脱ぎ去ってまっさらな自分になる」というシュタイナーの言葉に共鳴しています。毎日唱える「朝の詞」(※シュタイナー学校で毎朝唱える始まりの詩)も、同じ言葉なのに毎回違って、新しい。日々の積み重ねも感じつつ、今日また新しくここに立つという気持ちを大切にしています。

――なぜ詩を唱えるのでしょう?

帖佐:シュタイナー学校に通っていた娘に「一番の思い出はなに?」と聞いたら、「ろうそくのあかり」でした。担任になって初めて教室でろうそくの前でマッチをすってみたときに、「なるほど」と感じました。1年生の頃の子どもたちはやんちゃでなかなか静寂などありませんが、毎朝詩を唱えているとあるとき、子どもたちから太いものが立ち上がる感覚がありました。詩の時間が子どもたちを支え、自分も支えられています。毎日初心者でいたい、もっとチャレンジしたい、よくなりたい、やり続けたい、それはすべてにおいてそうだと思います。

馬場:この学校の先生はすごく謙虚ですよね。これで終わりはないという感じ。

――そういう気持ちが大切なのですね。教員になる前に、何か研修などはあったのですか?

木原:1年目は体育の非常勤講師をしながら、他の授業を見学したり、言語造形・水彩などを一対一で受けたり、たくさんの研修を受けました。学園で伝統的に行われている「サボテン」「魔女と村人」など、その年齢の子どもたちに合っている運動遊びにも助けられています。

――教員養成講座も受けていますよね?

木原:国内の教員養成講座を経て、今年度から連携型教員養成講座を受講しています。勉強できることが楽しく、子どもたちと同じ気持ちになれます。美術の授業は今まで苦手でしたが、あえてはみだしても、水彩の先生は微笑んで見守ってくれました。長期休みや土日中心なので、仕事をしながらでも無理なく受けられます。

――体育とは違う教科も、授業に生かせますか?

木原:音楽講座での先生のお話が特に印象的でした。例えば、“顎を引いて話すと相手が権威を感じられる”と聞いたので実際に行ってみたところ、それだけで子どもたちの様子が本当に変わりました。また、受講生の疲れを感じた先生が5分間横になるだけの時間を作ってくださったのですが、そのとき、子どもたちの様子や一日の流れを考えながら授業を行うことの大切さを実感しました。

帖佐:何をやるかに重きをおきがちですが、どうやるかが大切ですね。準備していたことでも、授業中に「違う」という感覚を子どもたちから感じたら、やらない勇気も必要です。

馬場:私は、学園が保護者向けに開催している教育基礎講座で学んだ後に、国内の教員養成講座や連携型養成講座で学びました。『一般人間学』を主軸に、学年ごとのエポック授業、フォルメン線描、水彩など、子どもの教育を追体験して学ぶことで、人間をどう見るかという指針がわかりました。失敗もありますが、そんなときは同僚に相談しながら、学んだことが自分の中に入り、つながっていきます。「どうしたらいいのだろう」と思った時、「学ばなくては」という強い意志を持てるようになりました。中国語のときは担当クラスの他の授業も見学し、与えられるのではなく自分で取りに行き、子どもたちからも受け取りました。

帖佐:教員を目指している方には、「恐れずに飛び込んでみて」と言いたいです。そして自ら積極的に学んでほしいです。欲しないと吸収できないですから。

馬場:教員のみなさんは質問や相談をすると、教えるのではなく、見せてくれます。そして誰も否定しないですね。

帖佐:授業は何が起こるかわからず、その時その時作り上げていくものですから、見てもらうのが一番いいですね。

――実践しながら学びをリンクさせると、気づきが多く深まるのですね。ちなみに帖佐先生の夢はなんですか?

帖佐:まずは、目の前に困っている子どもがいたら、助けられたらと思っています。現代の日本の教育をよりよくしたいというと、大きすぎる課題にも思いますが、何か疑問を持ったとき、ひとりが動けばだんだん波及し、変わる可能性があるのではないかと思うのです。すべての子どもたちに「世界は楽しい、素晴らしい、こんなに夢がある」と思ってほしいし、「やろうよ、できるよ」と言える子どもたちを増やしたいです。その人がその人らしく生きられるよう、一人ひとりの子どもが楽しく生きられる場所を作りたいです。

――よく先生は大変だと言われますが、シュタイナー学校の先生方は楽しそうですね。

馬場:子どもと一緒に過ごすことが楽しい、一人ひとりの持つ力を生かして成長してほしいという思いは、どの教育現場でも共通していると思います。中でも、シュタイナー教育のなかには、自分が楽しみながら子どもと授業を作ることができるエッセンスがありますね。

――そのエッセンスを知りたいです!

帖佐:私たちが毎日繰り返し行っていることですね。シュタイナー教育はその年齢の子どもにあった濁りのない環境を整えます。すると、子どもたちは自ら何かを見つけ、手を伸ばして、「楽しい!」と世界とつながっていくのだと思います。もちろんものすごく大変なこともありますが、結局は全部その楽しさにつながります。教員が偉いわけでも、万能であるわけでもなく、ただ純粋に子どもを「その子の楽しさ」へ導くだけです。

――どういう方に学園の先生になってほしいですか?

帖佐:子どもと一緒に未来を作っていきたい方なら、どんな人でも。「学校の教育や教員はこうあるべき」「いつもすべてできて明るくいなくては」などの見えない枠や縛りを解き放ち、自分らしくあってほしいです。できないこと、知らないこと、大変なことも、楽しんでほしいです。

木原:できないことができたという経験が多いほうがいいですよね。私は金づちで、泳ぐことが好きではなかったのですが、「速く泳ぐより長くゆっくり泳いだほうがいい」と教えてくれた先生がいて、今は水泳の授業が楽しくできます。

帖佐:以前、ドイツの教員養成の先生が「僕が一番好きだった先生は音楽の先生。彼は音痴だったけど、全力で歌うことを楽しんでいた」と言っていて、記憶に残っています。そして子どもたちの方が私たちより精神性が高いと言いますが、本当にそうだな、と日々感じます。

馬場:朝や帰りの挨拶で子どもたちと握手するときに目を見ると、自分より高次の存在だと感じますが、いつも「私も頑張るね」と思います。

帖佐:子どもたちの目を世界に開かせるためには、いろいろな背景を持った人が必要です。さまざまなバックグラウンドを持った方たちと楽しくやりたいです。



シュタイナー学園の先生たちに聞きました 〜教員への道のり〜

①シュタイナー教育との出会いはいつ?
②シュタイナー学校で教える前に就いていた職業は?
③どうやってシュタイナー学校の教員になった?
④教員としてのやりがいを教えてください。
⑤シュタイナー学校の先生、ここが大変!をひとつあげると?
⑥先生としてやってみたい夢は?

髙𣘺 幸枝 Yukie Takahashi(3年担任)
①公立の小学校で勤務していたとき、学年主任の先生に『ミュンヘンの小学生』をすすめられて
②公立小学校の担任
③国内の教員養成講座を受講
④小さな子どもたちと出会い、高等部に送り出すまでの間、一緒に過ごす日々
⑤年齢を重ねるごとに、鬼ごっこで息が上がってくるようになってきました
⑥現在担任しているクラスが8年生になるまで、この学園で健康で楽しく働けることです

木原 美和 Miwa Kihara(7年担任)
①地方紙で掲載された横川和夫さんの『もう一つの道』で知りました
②幼稚園教諭
③以前、学校運営に関わっていた東京賢治シュタイナー学校で基礎コースを受講し、国内のシュタイナー教育教員養成講座を受講
④子どもの成長を身近で感じられること、人間存在の意図や意味を背景に授業を実践できること
⑤子どもの思春期に「教師が踏み台になる時期」がやってきますが、そのころ体力が衰える(年を感じます…)
⑥カール・ケーニッヒのように「日本でキャンプヒルを創る」という大きな妄想を描いています

石代 雅日 Masahi Kokudai(音楽)
①大学生当時、電車の中で、大学の先生からお借りした子安美知子著『ミュンヘンの小学生』を読んで
③米国カリフォルニア州サクラメント近郊のルドルフシュタイナーカレッジ
④クラスや学校全体で、精神的なよい瞬間を共有できたとき
⑤アイデアが閃くように想像力を活発に働かせるだけでなく、それを実現させるための現実的な事務作業も必要な点
⑥無料塾のような所で何かしらのシュタイナー教育ができないかなというのが沢山ある夢のひとつ

山﨑 真嗣 Shinji Yamazaki(理科・工芸)
①20年ほど前、育児の冊子で紹介されているのを見たのが最初。それから意図せず出会う機会が増加
②公務員(土木)、木工・大工・林業、塾講師
③国内のシュタイナー教育教員養成講座を受講。小中高の教員免許は通信教育にて
④日々の子どもたちの生き生きとした笑顔、真剣な表情に触れること、苦難があっても成長を信じて関わり見守れること
⑤勢いよく成長する彼らと共に、自分自身が成長すること。それが大きな喜び。でも、そろそろ体力も……
⑥たくさん。役目としてはより充実した自然科学を学ぶカリキュラムや施設(科目ごとの教室、設備)の構築



FUJINO STEINER COLUMN 
13期卒業生 鹿俣智裕さん



シュタイナー学園教員養成講座 開講に寄せて 

シュタイナー学校の教員養成機関は国内外にあります。国内ではこれまでいくつかの学校が連携して講座を開いてきましたが、十年余りの積み重ねを経て、今年度より新たにシュタイナー学園主催の教員養成講座がスタートしました。

この講座では学園の現役教員が教えるのが特徴です。理論や方法論も学びますが、教員が今の子どもの姿を伝え、また受講生が学んだ内容を実践することを大切にします。例えば、子どもたちにお話を語ることも、方法を伝えるだけでなく、受講者の皆さんも練習して発表します。お話の覚え方ひとつとっても、やってみないとわからないことはたくさんあります。

第1期受講生には教員志望の学生もいれば、すでに教員の方、自身の学びにしたい方、学園卒業生の保護者として改めてこの学びを捉え直したい、という方もいて多様です。将来、講座を修了した方が学園で教員になってくだされば何より嬉しく思います。シュタイナー教育に興味を持った方は、ぜひ教員養成講座の扉を叩いてみてほしいと思います。

シュタイナー学園 教員養成講座担当教員 根岸初子