学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.02.10

卒業生

生活の様々な部分が僕のなかでは『作る』ことにつながっていて、それ自体が楽しいし、アイデアに繋がっています

卒業生コラム 第15期卒業生 本澤崇さん(後編)

本澤崇さん】
シュタイナー学園第15期卒業生の本澤崇さんは、建築家を目指し、現在ニューヨークにあるコロンビア大学大学院で建築を学んでいます。前編では学園でたくさんの「ものづくり」の学びに触れていた小中学校生活についてお聞きしました。後編では高等部にあがり、建築に興味を持った過程や現在について伺いました。

前編はこちら

そのまま当時まだ学校法人になる前の高等部に進まれたのですね。

実習や卒業プロジェクト(※)、12年生劇といった高等部でしかできないカリキュラムを学びたいと思ったのが大きいです。学校法人になる前だったこともあり外部進学する人もいて、人数は減ってしまったのですが、その分学年を越え、深い人間関係を築くことができた高校生活でした。走るチームに入り駅伝に出たり、部活動も楽しみましたし、農業実習や航海実習というシュタイナー学校ならではの実習も記憶に残っています。その間大きい絵画を描いたり、ずっと変わらず『何かを作る』ことが大好きでした。将来も『何かを作る』ことがしたいと思っていたけれど、その『何か』がなんなのかということを考えるようにもなっていました。そして12年生になり、卒業プロジェクトで今までの自分とこの先の自分を繋ぎ、進んでいけるような発表をしようと思いました。

卒業プロジェクトで建築をテーマに選ばれたのですね

自分が作りたいものを考えていくなかで、建築デザインのなかには空間、素材、光、あらゆる要素があり、そんな限りないものをデザインするということに魅かれていきました。卒プロでは『何に美しさや心地よさを感じるかは、その人の経験してきた時間や物事によって異なる』ということをテーマにして、自分が心地よいと思う建築空間をデザインし、その空間に置く椅子もデザインしました。そして木工所に通い実際作り上げた椅子と空間デザインを模型にしたものを発表しました。卒プロを終え、卒業後は建築を学ぼうと決めました。

卒業後まずカルフォルニアの大学で建築を学ばれたそうですね

日本の建築学科は工学部の中にあることが多く、自分はアートの領域で建築を学びたいという思いがあったのと、ずっとシュタイナー学校の心地よい環境のなかにいたので、自分が見たことのない世界に行ってみたいという思いもありました。1年間は語学学校に通い、その後カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)というアメリカの中でも前衛的といわれている建築家陣が教授を勤める大学で建築を学びました。UCLAで学んだのは、過去の建築や歴史を踏まえた上で、自分の概念を言語化しデザインしていくような、現代アートやコンセプチュアルアートにも通ずる建築でした。日本と海外の文化的、社会的価値観のちがいを感じながら、いいデザインとは何か? ということを考え、卒業後は1年間サンディエゴの建築事務所で働きましたが、まだ学びたいと思い、今はコロンビア大学建築学部の大学院で学んでいます。UCLAとはまた全く違う、環境や政治など社会的視点を持ったソーシャルな建築についても考えるようになりました。建築はそもそも、環境破壊につながることでもあり、建物の外にある環境や社会との関わり、そのなかで表現したいものはなんなのかと自分の具現化していくべき建築のあり方を模索している最中という感じです。いつかアメリカで自分の建築事務所を持ちたいと思っていますが、きっとこの模索自体は一生続くのではないかな、とも思っています。

広い世界に出て、自分を確立していくなかで感じるシュタイナー教育で得たと思うものはありますか?

何かを作る過程で、そのプロセスを楽しめるのは、学園の学びを通して得た力だと思います。『作る』行為って目に見えることでも目に見えないことでも、あらゆることの根底に実は潜んでいる。『ものを作る』っていう定義自体が、シュタイナー学校の経験のなかでどんどん広がっていったように思います。だから例えば今も、料理も好きだし、1日歩き回って写真を撮るのも好きだし、生活の様々な部分が僕のなかでは『作る』ことにつながっていて、それ自体が楽しいし、アイデアに繋がっている。そんな力を育んでもらったな、と思っています。

※卒業プロジェクト…自らテーマを決め1年間かけて探求した成果を発表し、レポートにまとめる12年生(高校3年生)の必修課題。


大好きだった「ものづくり」をシュタイナー学園の学びのなかで深め、そして「建築」というご自身の表現に出会った本澤さん。自分自身の表現を考えると同時に環境や政治など、社会的な視点を持たれていることもとても印象的でした。この先、本澤さんから発信されるものが見られる日が来るのが楽しみです。

ライター/中村暁野