学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2022.09.14

教育

発達が気になる子どもたちの土曜クラス 〜ことりさん〜

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.140 2022.9.14

「ことりさん土曜クラス」は、2021年6月からスタートしました。公立の小学校で支援クラスへ通っているお子さん2人と、特別支援学校へ通うお子さん1人、計3人(現在小学2年生)の子どもたちが月に1度か2度土曜日の数時間、藤野のシュタイナー学園へ来てくれています。「ことりさん」は、特別な支援を必要とする子どもたちを対象とする土曜クラスですが、どうしてこのクラスを始めることになったのか、まずはその経緯について書きたいと思います。
 
シュタイナー教育をどんなお子さんにも受けさせてあげたい、というのはシュタイナー教育に関わっている人間であれば誰しも持っている気持ちではないかと思います。また、発達に課題があるお子さんにこそ必要だ、という声も聞かれます。シュタイナー学園においても支援クラスを作ることなど、度々その可能性について話し合われてきましたが、学校側の体制を整えることは難しく、実現には至っておりません。けれども何かできることはないのか、具体的に考えるきっかけが私に訪れました。それは、あるお子さんとの出会いでした。
 
その子は、机や椅子が隅へ片付けられた広々とした部屋に入ってきた途端に、わあっと声を上げてぐるぐると円を描きながら走り始めたお子さんでした。けれども机の前の椅子に座らせて、私が歌を歌うと、その子はじいっとわたしの歌に聴き入り、「先生、歌上手だね」と言ったのです。そして、次に行ったフォルメンの学びでは、鏡写しになるふたつのフォルメンを描いた後、その子は顔を上げると「先生、これ、面白い。もっとやりたい。もっと書きたい」と話し、フォルメンに大きな興味を抱いたのがわかりました。
 
支援を必要としているこのお子さんとの出会いは、私に大きな影響を与えました。それは響きに耳を傾けること、フォルメンが与える力、いつも私たちが行っている授業それ自体が、支援を要する子どもにとって大きな助けとなるものだということでした。
 
ちょうどこのお子さんと出会ったのは、ことりさんのスタッフとして関わってくださることになる角田さん(養護学校教諭)から、発達に課題を抱える子どもたちのために何か出来ないだろうか、という話があった矢先のことでした。そして、「支援を必要とする子どもたちに、治療教育の要素を持っているシュタイナー教育の授業をしよう。土曜クラスから始めてみよう」という想いに至りました。そうして、音楽の古賀美春先生の協力も得られて、土曜クラス「ことりさん」を立ち上げることになりました。
 
昨年から3人のお子さんと「ことりさん」クラスは始まり、2年目を迎えました。子どもたちは少しずつ「ことりさん」クラスに慣れてきて、学びの楽しさを感じとっていることが分かります。私たちスタッフと子どもたちとの間に見えないつながりが生まれてきているのもとても嬉しいことです。子どもたちがどんなに聴いていないように見えても、それぞれで自由に動いていても、フォルメンを描くとき、メルヘンのお話の時間、そして響きの楽器を奏でる瞬間には、静けさが子どもたちの周りに漂って、体まるごとで感じ、学んでいる様子が見られます。シュタイナーの言葉、「障害を持っていたとしても、人間には健全な精神が宿ること」、学びへの意志があるのだということを深く認識する時間です。
 
今後の展望としては、この土曜クラスを毎年継続していき、学年に合わせたクラスを増やしていくことです。ただ、藤野にあるシュタイナー学園まで通うことが大変という場合も十分考えられます。将来はことりさんのような土曜クラスが広まって、都心に近い場所でも行えるようになっていったら良いな、ということもスタッフの間では話しています。
 
小さな種から始まった発達が気になる子どもたちの土曜クラス「ことりさん」が少しずつでもその芽を伸ばしていけますように。
 
ライター/教員 加藤優子