学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2022.09.28

教育

11年生航海実習~教室ではできない大海原での学び~

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.141 2022.9.28

今年度の航海実習は天候に恵まれた、比較的穏やかな3日間でした。3日間で駿河湾の3つの港をめぐるので、初日は7:30に藤野駅に集合し、マイクロバスで静浦港に向かいました。
 
11:00頃に乗船し、まずは清水港へと向かいます。初日の前半は波の高い時間もあり、船の先端で天然のアトラクションに乗るかのように大きな揺れを楽しむ生徒と、船の後方でとにかく揺れに耐える生徒がおり、自然の力の偉大さを痛感させられました(引率していた私自身も、体調の悪さから激しい船酔いになり2時間ほど船室で休んでいました)。
 
2日目は船上から日の出を見るために、早朝3:00に起床し4:00に松崎港に向けて出港しました。曇り空ではありましたが、雲の切れ間から朝日が見えると、歓声があがりました。その後は、波風共に穏やかで、順調な航海でした。船の操縦以外の時間には、マストに登り遮るものひとつない広大な海原を眺めたり、デッキの上で波や風、太陽の光を全身で感じながら、クルーの方から海での過ごし方などのお話を聞いたりして過ごしました。背の高い建物に囲まれた街中や、四方に山々が連なる藤野では感じることのできない開放感は、悩み多き高校生にとって癒しの時間にもなったのではないかと思います。
 
出港時間が早かったことと航海が順調であったことから、予定より早く12:00頃には松崎港に着岸しました。昼食を食べた後は、マストの一番上までロープで引き揚げてもらうマストクライムを楽しんだり、なまこ壁で有名な松崎の町並みを散策し、足湯に浸かってゆっくり過ごすなど、各々の時間を過ごしました。最終日の朝に予定していたビーチクリーニングも2日目の夕食前に行うことができ、大きなゴミ袋8袋とタイヤや発泡スチロールの塊を回収しました。
 
3日目は9:00に松崎港を出港し、右舷に見える岸壁にはっきりと浮かぶ地層を眺めながら、クルーの方からの指示をほとんど受けずに生徒たちの力で船を進めました。14:00に静浦港に戻ると陸酔いを感じながらも、少し離れた沼津港で海鮮物のお土産を買い、マイクロバスで吉野校舎に向けて出発し、18:00に充実した疲労感をもって解散となりました。
 
1か月ほど前に大きな海難事故があったことと合わせて、船長から数日前に落水された方がいた話を聞きました。マスト登りやバウスプリット(船の先端から伸びている帆を固定している柱)で景色を楽しむ際のハーネスを扱う手の様子からは、一段と慎重に安全を確かめていることも見て取れました。
 
船の上での開放的な時間もありましたが、もちろん航海実習ですから、船を走らせるために帆を上げ、舵を切り、帆の向きを変えるといったことも、時には全員の力を合わせて、作業によっては交代をしながら行います。1枚の帆を揚げるだけでも何本ものシート(ロープ)を同時に引いたり、送り出したりしなければしっかりと帆は上がりません。また、舵を取っている人には船の前方の海面はよく見えないため、漂流物があれば他の乗組員が伝えなければなりません。
 
帆を操作する前の掛け声に「All hands on deck!」という言葉があるように、ひとつの船を動かすために、全員が力を合わせる必要があります。普段は比較的おとなしい生徒が、誰よりも一生懸命にシートを引いたり、少しでも多くの風を帆に入れるために舵を取ったりする姿は、教室での授業だけでは見られない一面です。
 
非日常の中で開放的になりつつも、危険と隣り合わせであることからくる緊張感の中で仲間と協力して物事を進めることは、想像以上に体力も消耗します。楽しかったという感想の多い航海実習ですが、その中には間違いなく、教室ではできない学びがちりばめられており、自分の人生という名の大海原を切り開くヒントを得られたことと思います。
 
ライター/教員 脇元克也