学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.04.13

卒業生

自分自身を生きることに向きあい続ける

卒業生コラム 第13期生 鹿俣智裕さん(後編)

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.155 2023.4.12

北海道にあるシュタイナー学校「いずみの学校」で、現在1年生の担任として教壇に立つ鹿俣智裕さん。幼稚園から高校までシュタイナー教育を受け、北海道で野外教育について学んだ後、再びシュタイナー教育に携わっています。そんな鹿俣さんに子ども時代から現在に至るまでのお話を聞きました。
※お話は2023年2月にうかがいました。

前編はこちら


12年生の課題を通してトンネルを抜けた、とおっしゃっていましたね。
卒業プロジェクトではなにをテーマにしたのでしょうか?
 
大きなテーマで『自然と人間』というものでした。当時学園の8、9年生の合同授業で、富士登山があったんです。そこで登山家の戸高さんという方に出会いました。険しい山をニコニコしながらジャンベを担いで登り、中腹で叩いている。なんてかっこいい人なんだろうと思いました。そんな方と富士の圧倒的なスケール、美しさの中にどっぷりひたるような時間を過ごし、こんな世界が広がっているんだと感じました。ひとつの原点と言える経験です。

そのことがずっと心に残っていて、卒プロで登山に向きあいたいと思いました。地図読みや天気図など登山技術についてまとめながら、富士や長野県の涸沢などの山に登りました。戸高さんにも会いに行きました。なぜ人は山に魅かれるのかをプロジェクトを通して考えて、やりきったという気持ちで卒業しました。
 
卒業後、北海道教育大学に進まれました。
 
漠然と自分はいつかは教員をするのかな? という気持ちがありました。教員免許をとることができて、卒プロで取り組んだ登山などのアウトドア活動が学べるところに進学したかったんです。北海道教育大学にアウトドアライフ専攻という学部があり、野外教育やカヌー、登山を学びました。初めてシュタイナー学校の外の世界に出て、最初は冷たいな、と思うことや戸惑いもありました。でも学びたいことを学ぶためにここにいる、と思っていましたし、時間の中で周りの人も自分もお互い理解をしあっていきました。

卒業後は山岳ガイドをしたいという気持ちもあったのですが、大学のプログラムでアラスカ大学に交換留学した時に登山で雪崩に巻き込まれてしまったんです。山岳ガイドは誰かの命を背負う仕事だと思ったら、その覚悟を背負って仕事はできないんじゃないか、と思いました。悩んでいた時、友人に教えてもらったエコビレッジに出会い暮らしながら働いてみることにしました。
 
もともと環境問題にも興味があったのでしょうか?
 
環境への関心はずっとありました。アウトドアが好きだけれど、アウトドアはゴミが出る行為でもある。自然に負荷をかけてまで人が自然に入っていくってどういう意味があるのだろう? 自然に負荷をかけない暮らしってどういうものだろう? という問いがあったんです。

北海道の「余市エコビレッジ」で太陽光発電やバイオトイレを使った循環する住環境で自給自足的に暮らしながらワークショップを企画したり来客の管理をしたり…と2年している間に、もともとアウトドアの講師をしたりと交流があった北海道のシュタイナー学校「いずみの学校」の先生からうちの学校で教員をしてくれませんか? と声がかかり、今は1年生の担任を持っています。
 
シュタイナー学校で教員をしたいなという気持ちもありましたか?
 
ありました。けれども子どもたちのためにも自分のためにも、いろいろな経験を経てからのほうがいいだろうな、と思っていたので30歳すぎたくらいかな、と漠然と思っていたんです。実際は26歳で教員になりました。教員として再びシュタイナー教育に携わってみると、子どもの時には見えていなかったものが見えておもしろいな、と思います。自分が出会ってきた先生方はすごかったな、とも感じます。

自分が大事にしたいのはその子がその子らしく、その子が持っているものを伸ばすことです。「教える」という言葉はあまりしっくりこなくて「共に」という言葉が浮かびます。シュタイナー教育は自己教育し続けられる人を育てる、という教育でもあると思うんです。自分はどう生きていくのか、自分に対する自己教育ができる人を育てる。子どもたちと向きあい、子どもたちと「共に」自分も向きあい続けたいです。
 
最後にシュタイナー教育で得たものはなんだと思いますか?
 
自分を生きる力、かな。自分自身を生きることに向きあい続ける。「なんで生きているんだろう?」と7年生から自問しつづけながら生きている。経験を経ていくとやるせないこと、悲しいことも世の中にはたくさんあるけれど、それでも人間らしく、生きていく。それが自分を生きる力かな、と。そんな力を得た気がします。


今も自問を続けている。優しい口調でそう語る鹿俣さん。子どもたちと「共」に、人間らしく自分らしく生きていく、という日々の先に育まれていくものが、この社会を照らす力となるのではないかな、と思えるようなお話でした。

ライター/保護者 中村暁野