学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.11.22

教育

美術史 -高等部-「印象派と表現主義」

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.171 2023.11.22

前回のニュースレター( VOL.165/2023.8.30) 【美術史 -序章-「美について考える」】 の続編として、今回は高等部 11年生の美術史についてご紹介します。

11年生は、自らの中に「自己」の空間を持ち、その内面の世界と外の世界を学びや体験を通して繋げていきます。その内と外との関係性の中で考えを深め、自分の立っているところを見極めていくのです。11年生の美術史では「印象派と表現主義」を取り上げ、1800〜1900年代の画家たちが自然(世界)を如何に捉え、そこに自分を通して作品をどのように描いていったのかについて考えていきます。

私たちは誰しも過去から学び、その土台の上で現在としての“いま”を、まるで必死になってダンスを踊るように - 踊り続けながら探し続け、自分を通して何かを表現し世界に働きかけつつこの「時代」というものを未来へと繋げ、次の時代に橋渡ししていきます。“いま”を生きながら意識的、無意識的に未来を準備し、未来を生きていく私たちもいつしか過去になっていくのです。

それぞれの時代に目覚める、新たな人間の意識によって生みだされる視点や技法が次の時代に引き継がれるのです。その技法を継承する者、そこから新たなものを生み出そうとする者の間で常に対峙する場面が生じます。それは技術に留まらず、その背後にある意識の変革なのです。この意識の変革を、印象派が誕生する土壌となる2枚の絵から見ていきましょう。

1824 年パリ、芸術アカデミー主催の美術展サロン・ド・パリ(官展)に2点の対照的な作品が出品されました。

1点は、当時すでに画家としての地位を確立していた 44 歳頃のジャン=オーギュスト=ドミニック・アングルが出品した『ルイ13世の誓願』[1820~1824 年]。もう1点は、26 歳のフェルディナン=ヴィクトール=ウジェーヌ・ドラクロワの『キオス島の虐殺』[1824年]です。

アングルの『ルイ13世の誓願』は画面の上部中央に、明るい光を背景に雲の上に聖母子が、そしてその左右には濃い色彩の重い素材のカーテンを開く天使たちが描かれています。画面の下方からは、ルイ13世が跪き王冠と王笏を聖母に捧げています。

アングルは、イタリア留学でラファエロの作品から大きな影響を受け、300年以上も前に描かれた作品『システィーナのマドンナ』のオマージュであり、筆跡の残らない繊細な仕上げにより聖人や高貴な人々を理想的な姿として描いています。

一方ドラクロワの『キオス島の虐殺』は、全体的に暗い画面の下方に力なく座り込む老若男女、既に命の灯の消えかかる母親にすがる子どもの姿、ターバンを巻いた騎馬兵に連れ去られる女性などが描かれています。これは1822年に、ギリシアのキオス島でおきたオスマン帝国の統治下から独立しようとする人々を、トルコ軍が虐殺した場面を描いています。ドラクロワは現実に起きた出来事を捉え、名もなき人々を描きました。荒いタッチで描かれた画面からは、出来事の凄惨さと人々の虚無感を感じ取ることができます。

過去を讃えつつその技術を高め、理想的な姿を描くことに力を注いだアングルとタイムリーな出来事を見る人の感情に訴えかけるようにドラマチックに描いたドラクロワ。ドラクロワの、一見すると乱暴に描かれたような画面のタッチ、そこに観られるスピード感と色調は、当時の若い画家たちに新しい表現を示し、印象派への道のりの一端となりました。

11年生も社会や学校から学ぶ過去や現在の「常識」に対して、未熟でありながらも確立しようとしている「自己」をもって対峙し、自分たちで新たな未来を築きたいともがいています。11年生は作品観察を通して、ルネサンスを継承する作品に、美しさと受け入れやすさを感じながらも、300年前と同じようなスタイルで描くことへの疑問を持ちました。また、現実を描き観る者の感情に訴えかけるドラクロワの作品は、彼らにとって、より〈リアル〉であり、そこから未来への予感を感じ取ることができるものとなりました。

ライター/教員 大嶋まり