学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2025.01.08

教育

成長を支える学校図書室

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.200 2025.1.8

子どもたちは“今”読みたい本を求めて、日々図書室にやって来ます。

「犬のお話ないですか?」
「怖いお話が読みたい!」
「読むとドキドキするような本がいい」

それぞれの要望にかなう本を自ら探したり、司書である私が紹介していくこともあります。そのようなことを繰り返していると、

「先生はこの図書室の本全部読んでいるんだよ。だから色々教えてくれるんだよ」

という会話が聞こえてくることがあります。「そうだよ!」と返事をしてあげたい所ですが…さすがに全部とは言い切れず、そうできるよう努めますと心の中で答え、聞こえていないふりをしています(笑)。

現在、学校図書館という呼び方が浸透していきているなか、私たちは愛情を込め、“図書室”と呼びます。施設の小ささや、暖かな身近さに理由があるかもしれません。

子どもたちはその部屋のすべての本を見渡すことができます。それはつまり、自分で選択する力を身に付ける練習の場になると言えます。手におえる範囲の場が、試行錯誤の繰り返しを可能とし、それがやがて、自ら選択する力をもたらすことになります。一望できる本たちは、そうした子どもたちの育ちの中で、必要とされる時をゆっくりと待ってくれているのです。

~図書室での出会い~

図書室の利用は4年生から始まります。

担任の先生に連れられ、初めて図書室を訪れる4年生に会う日は、とても緊張します。同時に、どのような本が好きだろうか、どのように本と出会ってきたのだろうかと思い馳せ、胸の高鳴る時でもあります。

「どの本にしよう…」

利用の説明を聞き終えた子ども達は書棚を見つめ、悩みます。

『長くつ下のピッピ』の登場人物たちと共にピッピの誕生日パーティーに招かれた気分で、“床に降りません遊び”に興奮したり、『ナルニア国物語』のように家の箪笥の奥にも、住んでいる世界とは異なる、もうひとつの別の世界があるのではないかとドキドキしたり…、悩む目の先には、かつて子どもだった大人たちが、心躍らせたお話の本がたくさんあります。

時を越えても、子どもたちは同じようにそれらのお話を楽しみ、時には悲しみ、主人公たちと共に心を動かしているのです。

書棚との対話を終え、図書室で初めて“この一冊”を決めた子どもたちに、利用カードを手渡します。一人ひとりの名前を確認し、カードを手渡す時は特別な瞬間です。同時に、この先共にする読書の時間が良き時間となるよう願い、そのために私が努めるべきことは何かを問う気持ちが、芽生える瞬間とも言えます。

貸し出された本を手にした子どもたちは、さっそくお話の世界へと出かけていきます。冬のこの時季、南の窓から低く差し込む日差しは、お話に夢中になっている子どもたちを暖かく包み込んでいきます。

~物語に育てられる心~

心を動かすといえば、保護者の方が、読書後のお子さんの様子を教えてくれたことがあります。

本を読み終えたお子さんは、お話がどんな内容だったのかを話し始めました。話しながら、ぼろぼろと泣き出したそうなのです。とても悲しいお話だったのです。それでも、お話を読んでよかったと思ったと言うのです。

きっと悲しさが昇華できず、心の中にあったのでしょう。それを伝えることで、気持ちの置き場を見つけることへ繋げ、他者の悲しみを自分の中で咀嚼していったのではないかと思うのです。

お話は、子どもたちが日々を送る世界を様々に切り取り、語りかけます。それは、やがて訪れる体験への予行練習をもたらすと言われます。登場人物たちと共にした感情の体験は、来るべき驚き、悲しみ…現実世界での「その時」にそっと手を置いてくれ、伴走者となってくれるはずです。

~子どもたちを支える図書室~

学校の図書室は、学年ごとの学びと、その時期の成長を併せて検討された蔵書により構成されます。また教員や司書が子どもたちとの直接対話をもとに、それらの蔵書を提供できることが利点です。つまり、出会いのタイミングを大切にした支援が行えると言えます。

私の夢は、学園での学びを深め楽しむ声があふれ、本との出会いから、生きる糧となる意味を子どもたち自ら見出す力が備わる図書室を作ることです。そのための果てのない模索が続きます。


ライター/シュタイナー学園図書室司書 相見千昌