2024.12.25
白黒だけで判断しないことの大切さ プロセスを大切にする感覚が生きている
卒業生コラム 21期生 黒川朔太郎さん(後編)
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.199 2024.12.25
現在、北海道の小樽市で寿司職人見習いとして働いている黒川朔太郎さん。在学中は藤野の川や湖で魚釣りや自然遊びに明け暮れ、卒業後は弓道に夢中になりました。黒川さんは初等部の頃にてんかんを発症。学園での生活を送りながら、自分自身と向き合う日々だったそうです。そんな黒川さんに、子ども時代から現在までのお話を伺いました。
福祉実習ではどのような体験をされたのでしょうか?
「べてるの家」は北海道浦河町にある、精神障がい等を抱える方たちが当事者研究などを行う地域活動拠点です。そこで出逢った方たちの、病気に対する向き合い方に胸を打たれました。“弱さの情報公開 弱さを絆に”という言葉を掲げて生活をされているのですが、当事者が病気を“病”としてではなく、“個性”として受け入れています。その姿を見て、物事には表と裏があって、闇があれば同じくらい光もあること。てんかんをネガティブとしてのみ捉えるのではなく、ポジティブに捉えてみようと思えるようになりました。
それからは、てんかんを持ったからこそ見える世界がたくさんあって、向き合うことで自分をより深く知ることができると実感できるようになりました。
学園を卒業した後は、北海道の大学に進まれたそうですね。
卒業してからは北海道網走市にある、東京農業大学のオホーツクキャンパスに通い、水産や海洋生態系について勉強しました。網走では、冬場は流氷やアザラシを見たり、凍った湖の上を歩いてみたりと自然が好きな私には最高の場所でした。
一人暮らしをしながら、ロードバイクで100キロ、200キロと走ってみたり、超望遠レンズをつけたカメラでヒグマやエゾフクロウを撮ったり、雌阿寒岳に登ったりと北海道の大自然を楽しみました。また、小さい頃からなぜか弓道に惹かれていたので、弓道部に入部したんです。自分に合っていたようで部活動外でも夢中で弓を引きました。3年生になると主将もやらせていただき、全道学生弓道大会の個人戦で優勝することができました。
弓道をやってみて、弓道とオイリュトミーはよく似ているなぁと感じました。言葉で説明するのは難しいのですが、“意識”の流れというか…。弓道の世界では、矢は“的に当てるのではなく、当たるもの” だと言われています。射法は八節に分けることができ、一節一節に意識を集中します。的に当たったことは結果であり、弓を引くプロセスがとても大切。オイリュトミーにも同じ感覚があって、意識と、表現にいたるまでのプロセスが大切というか…。学園にいた頃は何のためにオイリュトミーを行うかよくわからなかったけれど、卒業してからその意味を知る体験は多くて、答え合わせが生まれているなと思っています。
なぜ、寿司職人という道を選ばれたのでしょうか。
私は魚を釣るのも捌くのも大好きです。また学園時代は工芸や手の仕事の授業など、手を動かすことが好きでした。クラスで持ち寄りの時は太巻きをよく作って持って行ったのを覚えています。自分が作った料理で相手が美味しいと言ってくれることの嬉しさは学園の時に知ったかもしれないです。また一人暮らしをする中で、料理の楽しさを知ったのも寿司職人を目指すひとつのきっかけのようにも思います。
社会に出ると、てんかんがネガティブに作用する機会が増えました。就職活動で私は敢えて、てんかんを持っていることを先に伝えるようにしていたのですが、落とされてしまうことは少なくなかったです。それでも、オープンでいることは大切にしました。大学在学中からそのようにしていたのですが、そうすると相手も「実は…」と心を開いてくれることが多かったです。共感し合えたらその分、関係も深く繋がっていく。これは、“弱さを絆に”から学んだことです。就職先も、共感し合えたことがきっかけで決まりました。魚も大好きですし、これから先も楽しみです。
今後の夢や目標を教えてください
海外にもたくさん行ってみたいですね。現地の寿司事情にも興味があります! あとは、てんかんのことを広く知ってもらいたい。てんかんを持っていても、色々なことにチャレンジできるんだよって前例を作って伝えていきたいです。“障がいは社会が作るもの”という言葉がありますが、環境や社会が変化すれば、それは、障がいじゃなくなる。自分の経験を活かして表現していきたいです。
最後に、シュタイナー教育で得たものはなんだと思いますか?
たくさんありますが、曖昧さ、白黒だけで判断しないことの大切さ。両極にあるその間、プロセスを大切にする感覚です。この感覚は、日々の生活の中でとても生きています。そしてこれからも大切にしていきたいです。
ライター/自主クラスことりさん保護者 林 亜沙美