
2025.08.06
響き合う学びの場へ
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.215 2025.8.6
今年、全国のシュタイナー学校の高等部生徒が一堂に会し、芸術を通じて交流する「高等部合同芸術祭」が開催されます。それぞれの学校で育まれた表現を持ち寄り、語らい、響き合いながらひとつの場をつくりあげていくこの催しは、作品の発表にとどまらず、若者たちの対話と共創の場として、かけがえのない時間となることと思います。
こうした取り組みが初めて全国規模で行われたのは、シュタイナー教育100周年を迎えた2019年のことでした。当時、私は生徒としてその記念行事に参加しました。北海道、関東、関西、九州といった異なる地域に暮らす同世代の仲間たちと出会い、時間を共にしながら、自らの表現を通して語り合う貴重な経験をさせていただきました。
それは単なる「他校との交流」という枠を超え、まるで “もうひとつの学校” がそこに立ち現れたような感覚でした。初対面であるはずの相手と、どこかで同じ空気を吸って育ってきたような不思議な親しみを覚えたのです。言葉の奥にあるもの、作品に込められた思い、歩き方やまなざしの一つひとつに、私たちは互いに「シュタイナー教育を受けてきた」という共通の土台を感じ取りました。
その体験を通じて実感したのは、「違い」が障壁になるのではなく、むしろ響き合いを生む土壌になりうるということです。異なる学校、異なる土地に育っても、根底に流れているものが共通していれば、そこに自然な共感や信頼が芽生える。そうした瞬間の連続が、あの場を特別なものにしていました。
あれから数年が経ち、私は卒業生という立場からこの芸術祭を見つめています。今回の芸術祭には直接関わってはいませんが、あのとき私たちが感じた出会いの力が、今また別の世代の手によって、新たなかたちで花開こうとしていることに、深い喜びを覚えています。
芸術は、ただ表現する手段にとどまらず、人と人とが出会い、何かを共有し合うための大切な媒介でもあります。自分自身と向き合いながら誰かに伝えようとするその過程に、他者へのまなざしが育まれ、共感が生まれていきます。今回の芸術祭でも、そうしたやりとりが静かに、しかし力強く交わされていくことでしょう。
かつて自分が立っていたその舞台に、今は別の誰かが立ち、新たな物語を紡いでいる。その姿に敬意を抱きながら、今回の芸術祭が、参加する生徒たち一人ひとりにとって、意味ある出会いと深い学びの機会となることを信じています。
どうかこの芸術祭に、多くの方々が耳を傾けてくださいますように。そして、そこで交わされるまなざしの一つひとつが、また新たなつながりを生み出す種となっていくことを願っています。
ライター/24期卒業生 松本光生