学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.11.10

教育

オンラインシュタイナー教育講座「子どもの教育とデジタル機器」レポート

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.119 2021.11.10

10月2日にオンラインで行われたシュタイナー教育講座「子どもの教育とデジタル機器」(講師:シュタイナー学園教員 小柳平太)には、200名を超えるお申込みがありました。コロナ禍で教育へのデジタル機器導入が急速に進むなか、このテーマへの関心の高さが伺えました。今回のニュースレターでは、その一部をご紹介します。

現代社会が向かう未来は、自然災害や未知の病気など不確実で予想が難しい事態が起こり、多様な価値観が生まれ、目まぐるしい変化の時代だと考えられています。また「人生100年時代」と言われる長寿社会で一人ひとりの人生はより個性的になるでしょう。そうした複雑化する社会の課題を、人の力とA Iなどの高度技術を組み合わせて解決していくのが、現代の子ども達が生きる未来の社会です(※1)。

※1)内閣府が「Society5.0」として提唱。

OECDは、そうした社会に生きる人間に必要な力として「新たな価値を創造する力」「責任ある行動をとる力」「対立やジレンマを克服する力」をあげ、日本の教育政策もこうした力を育てることを目標に掲げています(※2)。実はこの目標はシュタイナー教育の目指す社会像、人間像ととてもよく似ています。シュタイナー教育が育もうとする“真に自由な人間”は、この3つの力を備えている人間だといえるのです。

※2)「ラーニング・コンパス(OECD Learning compass 2030)」

目標とするところは似ていながら、公教育ではデジタル機器や情報技術を低学年から積極的に取り入れることで、子どもにより良い教育環境を作ろうとしています。しかしシュタイナー教育は、低年齢からのデジタル機器使用は子ども本来の力を抑圧してしまうと考えます。その理由として、シュタイナー教育の特徴である、人間の発達段階を7年ごとの周期で見る人間観と、「12感覚」と呼ばれる考え方を紹介しました。

シュタイナー教育では、14歳までに実際に自然や芸術に触れることで育まれた感覚が、将来の思考する力や心身の健康につながると考えます。14歳までの時期に実際に触れたり味わったり聴いたり動いたりすることで育つ感覚を、デジタル機器で置き換えることはできません。

例えば、可愛い動物を見れば触れたくなり、その体温や手触り、匂いなどを感じます。しかし写真や動画では可愛いと思って手を伸ばしても、ひんやりとした画面しか感じられません。

知識は得られても、実際に触れ感じることはできず、実体験で育つ様々な感覚は芽を出さないままなのです。

ただしデジタル機器を取り入れることが発達段階に寄り添う15歳以降は、シュタイナー教育でもPC操作やプログラミング、A Iやビッグデータの理解といった学びが始まり、現在世界中のシュタイナー学校でその学び方を模索しています。

参加者との質疑では、車内広告など子どもがメディアに触れるのを避けられない状況の悩みも寄せられました。講師からは、メディアを否定するのではなく、動画が楽しかったという子どもの思いは受けとめた上で、メディアでは得られなかった感覚を取り戻すような遊びをたくさんして補ってはどうでしょうかという提案がありました。終了後は「これでいいのかな、と疑問に感じていたことをシュタイナー教育の考え方を聞いてはっきりさせられた」「子どもにタブレットが配布され戸惑っていたが、デジタル機器が子どもに与える影響を知ることができた」といった感想が寄せられました。

これからもシュタイナー学園ではさまざまな形でシュタイナー教育を知っていただき、ともに理解を深めていける機会を設けていきます。

11月13日(土)には、藤野の魅力を味わえるオンラインイベント「藤野まるまるマルシェ」のプログラムの一環として、オンライン体験授業「世界とつながる算数・数学」を予定しています。

生徒の学びに配慮する観点から授業参観は行っていませんが、こうした大人向けの体験授業で実際の学びの様子を感じ取っていただければと思います。

参考書籍:「デジタル時代の子育て」ミヒャエラ・グレッグラー著 イザラ書房