学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2019.07.17

教育

今井重孝先生 インタビュー

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.63  2019.07.17

青山学院大学名誉教授を務められている教育学者・今井重孝先生は、シュタイナー教育、ホリスティック教育を研究されています。長年教育学に携わってきた今井先生に、これからの社会で必要とされている教育のあり方についてお話しを伺いました。




今井先生とシュタイナー教育の出会いは何だったのでしょう?

1975年に子安美知子さんの『ミュンヘンの小学生―娘が学んだシュタイナー学校』が出版され、読んだのが出会いです。わたしは教育学を学び、大学院ではドイツの教育学を専攻していましたが、そこでの学びにはシュタイナー教育は出てきませんでした。それまで戦後の日本では無視されていた教育だったんです。もともと小学校の時から、人間はなんのために生きるのか? 教育とはなんなんだろう? という疑問を持っていました。そういったことを考えたくて教育学を学ぼうと大学に入ったのですが、当時は大学紛争が起こり、大学は封鎖され、暴力的に主張が行なわれている時代でした。暴力に訴えず「なぜ?」と考えるには知識が必要だと思いました。『ミュンヘンの小学生―娘が学んだシュタイナー学校』を読んだ時に、これはわたしが通いたかった学校だと思い、それ以来シュタイナー教育に関心を抱き、折に触れ関連文献を読んだり、ドイツのシュタイナー学校を訪問調査したりしました。

長年教育学を研究してきましたが、これからの時代には、ホリスティック教育が非常に重要だと感じています。シュタイナー教育もホリスティック教育の中に位置づけられています。ですが、ほかのものと同列には語れないほど、シュタイナー教育はものすごく良くできています。わたしは一番優れた教育だと思っています。

ホリスティック教育とはどういう教育なのでしょうか?

知育だけではなく、感情の教育や意志の教育を重視し、全体のバランスを重視し、頭と心と身体のつながり、地域や自然とのつながり、そんなたくさんの『つながり』に焦点をあてた教育です。何か一つに偏るのではなく、全体性が大事だという理念に基づく教育です。現在の日本の教育は知育偏重教育です。それが正しいと勘違いして頭中心の教育ばかりやっていることに、全ての問題の根源があると思います。

確かにさまざまな早期教育がさかんに行なわれています。

0~7歳という時期は、脳自体が成長途中の段階です。まだ出来上がっていない脳に強くはたらきかけるということは、脳の発達が遅れることにつながります。教育の結果は、幼い時に何が出来るようになるかどうかではなく、一生を見ないとわからないものです。7歳までの子どもは、主体性を持ち身体を動かしながら、経験を通して学んでいくことが重要です。身体を発達させる段階(0-7歳)、感情を発達させる段階(7-14歳)、思考を発達させる段階(14-21歳)という、3つの年齢段階に合わせた教育によって、全体のバランスがとれた大人に育つのです。全体のバランスが崩れていると、知的能力も崩れていきます。シュタイナー教育では、教育方法を教育芸術と呼んでいるところに示されているように、とりわけ7-14歳の間は、授業の中にできるだけ芸術的要素を組み込むことが重要であると考えられています。シュタイナー教育は、まさに『発達段階に合わせた学び』ということをとても大切にしています。

もっと学力をあげたいのだとしたら、知的教育以外のことに目を向けることが大切です。今、日本の教育は『個性が大事』とうたわれるようになり、新しい指導要領では一人ひとりに合わせた対応をするよう求められるようになりました。でもなぜ個性が大事なのか? 多くの人が定かではないままにやっているように思います。結果、個性と言われるものの中身がただの『適性』になっている。個性を大事にするというのは、子どもを何かの『適性』に当てはめることではないのです。一人ひとりが持って生まれた才能を花開かせること、その子の持っている力をどれだけ支えられるかということ、その子が生まれつき持っているさまざまな力を引き出してあげることが、個性を重視するということなのです。

一人ひとりの子どもの持って生まれた個性を引き出すことこそが良い大人を育て、良い社会をつくっていく力となるのです。そんな教育を100年前からやっているのがシュタイナー教育なのです。

近年、国際学力比較調査で常に上位だったことで注目されたフィンランドの公立学校は、シュタイナー教育で行っているいくつかのことと共通するところがあるそうですね。

そうですね。試験がないことや、長期間担任が変わらないことなどが共通しています。

話変わりますが、これから10~20年の間にロボット工学を研究している学者達がどういった方向に舵をきるのか? それによって社会の枠組みは大きく変化していくだろう、という過渡期に、今わたしたちはいます。社会が悪い方向に向かわないために、開かれた心で手をつないでいくことが大事だと思います。AIによって多くの職業がなくなるだろうと言われる今こそ、新しい職業を生み出せる創造性を備えた大人へと育成する力のあるシュタイナー教育が重要なのです。これからの学校のモデルケースになる、そんな役割もシュタイナー学園には担ってほしいと思っています。