学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2020.09.02

教育

外国語としての中国語の学び~他者への共感、理解へ~

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.88  2020.09.2

多くのシュタイナー学校では、小学校の低学年から外国語を学ぶカリキュラムが組まれています。シュタイナー教育において、外国語を学ぶことで他者への理解や共感を持つ力を養うことにつながると考えられているからです。母国語とは違う言語を学ぶことによって、その言語を使う国や地域、人や文化に関心を持つことになります。また、日本語にない音や表現を体験することは、子どもの五感へ働きかける作用もあり、教科としての外国語能力習得の目的というよりは、心や体の発達への刺激にもなると考えています。

当学園では、1年生から英語と中国語の二つの外国語を学び始めます。以前は、第二外国語はドイツ語だったそうですが、英語と文法や構造が似ていること、日本のシュタイナー学校なのでアジアの言語をということで、中国語に変えたそうです。

低学年の学び方としては、主に体を動かしながら歌を歌ったり、詩を唱えたり、ゲーム性のあるアクティビティを通して、中国語を楽しむことから始めます。この時期の子どもたちは教師の動きや言葉を模倣し、歌や詩を自然と覚えていきますが、春、夏、秋、冬それぞれの季節に合ったテーマや、その学年が取り組んでいる他の科目のテーマに関連する歌や詩、ものがたりを題材にするので、言葉の意味が分からなくても子どもたちは、「あっ、これはもしかして!」と気が付くことがあります。

例えば、春には鳥やうさぎ、夏にはかえるやあひる、秋には落ち葉や果物、冬にはクリスマスや正月に関する内容を選びます。中国の文化を感じられるようにと、なるべく中国で昔から伝えられている歌を選びますが、子どもがよく知っている日本や欧米の童謡を翻訳したものを選ぶこともあります。また、学年の学びに沿ったテーマでは、1年生にはメルヘンなど、2年生には動物寓話など、3年生には人の生活や創世神話などを選びます。時には、石や花、シルク布、羊毛やフェルトの人形を使うこともありますが、子どもたちは、教師の言葉と身振りを模倣して、言葉に合わせた体の動きから内容を想像しています。

赤ちゃんが母国語を発することと同じように、繰り返し聴いて真似をすることで言語として習得していくイメージなので、基本的に授業は中国語で進めます。シュタイナー教育における他の科目と同様に、学びの中でリズムや繰り返し、そして呼吸を大切にして授業を組み立てるので、子どもたちは次に何をするかがわかっています。学期や一年を通して同じ内容を繰り返すことでまるで「音楽のように」言語を吸収しているのでしょう。

言語には「響き」があります。私自身が中国語を学び始めたきっかけは中国語の美しい響きに感動したことでしたので、中国語を聴いたとき、話したときの心地よさを子どもたちに体験してほしいと願って授業を行います。「言霊」と言うように、言語の持つ霊的な質が子どもの成長を助ける要素があると考えて、1年生でも漢詩を中国語で唱えます。漢詩には独特のメロディと情緒があるからです。母国語にない音の質を学ぶことは学齢期の子どもたちの感覚や感情の育みの栄養になるのではないでしょうか。

高学年になると、文字や文法も学び始めますが、ゲーム形式で自分のことや身の回りのことを中国語で発表したり、故事成語やお話から歴史を学んだり、決まった法則の中で多様な単語を当てはめていくなどの文章作成を繰り返し練習したりもします。

ところで、子どもたちは、初めて中国語を聴いたときに様々な反応を示します。ぽかんとしている子、大きな声で一緒に歌う子、小さな声で恥ずかしそうに話す子、「どういう意味?」と聞く子、聴いた言葉を日本語やほかの言語の似ている言葉として認識する子(例えば、大根を意味する「萝卜(Luo bo ルォーボ)」を「ロボット(Robot)」)など、本当にそれぞれです。共通していることは、子どもが新しいことを知りたい、学びたいという意欲があるということです。

校内で会うと「ニーハオ!」と元気よく挨拶をする子どもたちが将来、中国の人や文化と出会うときに、「ニーハオ」との出会いのときの楽しい感動をもって接することができるように願っています。

ライター/教員 馬場愛子