学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2024.04.01

教育

学園通信 2024年 春号 

学園通信(2024年 春号)ができました。 (PDF版はこちら

<主な内容>
・特集/対談:シュタイナー学園の校外学習〜授業と体験を通して育まれるもの〜
・教えてください! 校外学習の思い出
FUJINO STEINER COLUMN 20期卒業生 石橋初季さん


【特集 / 対談】シュタイナー学園の校外学習〜授業と体験を通して育まれるもの〜

〔お話〕
増渕 先生(中等部校長・数学専科)
岩﨑 有華先生(初等部担任)
脇元 克也先生(高等部アドバイザー・保健体育専科)

インタビュアー/柳田真樹子(事務局広報) ライター/越野美樹

地に足をつけ俯瞰し「私とあなた」を認識

 ―校外学習と普段の学びにはどのようなつながりがありますか?

増渕:例えば3年生では、『古事記』で物事のはじまりを学び、食物の神様とのつながりから米作りを行います。地に足をつけはじめる時期、大地を意識した学びです。

岩﨑:種もみを撒き、代かき、田植え、収穫、天日干し、脱穀。ご飯を炊いておにぎりを握り…という一連の流れは、子どもたちの喜びにつながります。

 ―3年生では、職業体験もありますよね?

岩﨑:地は陶器、水は紙すき、火は鍛冶屋など、地水火風の要素を取り入れています。

 ―林業の体験も行いますが、山に入って斧で切り倒す作業は圧巻ですよね。その木を使って、4年生になると家作りですね。

岩﨑:世界の家を研究し、家はその土地の気候風土に合ったものであることを知り、自分たちにはどんな家が作れるかを考えます。校庭に穴を掘って大きな柱をみんなで立てたり、得意な子がロープをギューッと結ぶなど、協力することも学びます。

増渕:世界の家の共通点は屋根と壁があり、雨や風から身を守ること。自意識など心の動きが活発になるこの時期は、子ども自身も内側と外側の空間を作り、自分と他者をはっきりと認識していきます。柱を立て、土台をしっかり固める作業は、自分と家を無意識のうちに重ねて捉えられます。

岩﨑:この時期に自分たちの手で柱を立て、覆いを作る作業をすることで、しっかり根ざして立つことができます。また、尋(ひろ)などの体を使って測る3年生の学びも使います。

 ―学んだことや自分の手足が役に立つと、自信につながりますね。また、4年生は郷土学がありますよね?

増渕:近視眼的なところから、俯瞰して見られるよう促します。

岩﨑:鳥に乗って空から町を一望する子のお話をして、教室を上から見たら、山から学校を見たら……と俯瞰します。近隣の方にもお話を聞き、地域のことを学びました。

増渕:空中から落ちてきた水滴が波紋となって広がっていくように、家から郷土に意識の広がりを促します。さらに5年生では日本地理の学びで保護者など身近な人に故郷の話を聞き、6年生になるとアジアからヨーロッパへ、世界の暑い国から寒い国へと徐々に視野を広げていきます。

その時期ならではの感動 学びが心身に入ってくる

 ―5年生では動物学で動物園やムササビ観察に行き、6年生では鉱物採集に行きますね?

増渕:動物からはじまり植物、鉱物と、だんだん人間から親和性が離れるものに移行し、物質に焦点をあてていきます。骨がかたくなり手足が長くなる時期に、地球の中で結晶化する鉱物を観察します。

岩﨑:火山などの地形から鉱物が生まれるお話をしますが、マグマの中から緑色の宝石のようなカンラン石が生まれることを知ったときには、私自身も改めて美しさと不思議さを認識しました。

 ―6年生の奈良県への歴史旅行は、校外学習の人気ベスト3に入っています。

岩﨑:授業では奈良時代のお話をした後に子どもたちに寸劇をしてもらい、当時の様子を体感してもらいました。平城京の縮尺図を教室いっぱいに描いたりもしました。授業で事前に歴史について学んだ後、平城京跡地をサイクリングしたり、東大寺や法隆寺でガイドさんのお話を聞きました。

増渕:東大寺の大仏の話をした後、紙をつなぎ合わせて大仏の手を描き、その上に全員で乗りました。ただ実物を見るだけとは違う印象で見られますね。

 ― 7〜8年生になるとパラグライダー、カヌー、サバイバル合宿など、壮大な体験が入ってきます。

増渕:パラグライダーは気圧の学びです。翼の下では風がゆっくり流れ、翼の上では早く流れることで気圧差が生じて持ち上がる。これが揚力です。校外学習の前に紙とストローで気流の実験や、扇風機とパラグライダーの翼模型で実験をしました。

岩﨑:子どもたちは、機械を使わず空を飛べることに感動していました。

 ―カヌーは浮力の学びでしょうか?

増渕:それもありますが、私は大航海時代の学びから入りました。周りの大人に対して疑問がわいてくる時期、自分で自分自身をコントロールし、責任を持つ体験をして欲しくて、7年生で行いました。

岩﨑:8年生で水の重さや抵抗など圧力を学ぶので、私はパラグライダー合宿と一緒に行きました。

 ―8年生のサバイバル合宿は、ハードですよね。

岩﨑:タープ張りから炊事まで自分たちでやります。3日分の食材や道具をリュックに詰めて山を登り、濡れた木に火がつかないこともありましたが、子どもたちは全部やり遂げてたくましくなりました。

人の役に立つ楽しさ 仲間と協働する楽しさ

 ―9年生の農業実習にはどういう意図があるのですか?

増渕:9年生は第一次産業で農業実習、10年生は第二次産業で職業実習、11年生は第三次産業で福祉実習を行います。

脇元:農業実習は一日中同じ農作業を行い活動量も多いので、大変さも感じる実習です。食事や掃除の当番、洗濯機や風呂の順番も声を掛け合い、共同生活することも学びです。普段当たり前に出てくる食事のありがたみがわかるという感想もありました。

 ―10年生の職業実習はどういう意図ですか?

脇元:文明発生史で物の起源を学び、物がどんな人の手でどのように作られているのかを学びに行きます。自分で作った物がお客さまの役に立つことが、サンタからプレゼントをもらうくらい嬉しかったと言う生徒もいました。

 ―10年生の測量実習は数学の学びですか?

増渕:三角比の実習です。三角形の辺と角の関係性を学んだ後、実際に測量に行き、数学が自分たちの生活にどのように活きるのかを体感します。敷地内を測量して地図を作りますが、川幅などの測れない場所も、三角比を用いて計算することで算出できます。

 ―11年生の航海実習は楽しそうですね。

増渕:11年生で球面幾何学や天文学を学びますが、平面から球面になったときに図形の概念が変わります。船では陸に見える目標を定めて計算します。

脇元:船酔いする生徒がいたり、帆が暴れて思った方向に進まなかったり、ノット(速さ)が出なかったりいろいろとあります。舵とりする生徒、帆を張る生徒、ボーッと海を眺める生徒も、船長から「オールハンズオンデッキ」と声がかかると、すぐにデッキに集合します。全員が関わらないと船が進まないと実感でき、責任感も育まれます。風を読み自分で進む道を決め、船を操作する体験が心に響き、運輸業に就職した子もいます。

 ―福祉実習は3週間ですね。

脇元:それぞれ体験も異なりますが、障がいのある方への見方・考え方・接し方が変わったという生徒が多いですね。保健体育の授業で多様性を学び、ディスカッションを行いますが、福祉実習を終えると人と接することがどういうことなのか、心の中に落ちてくるようです。

 ―最後に、シュタイナー教育にとって校外実習とはどういうものですか?

増渕:思春期の子は感情を表に出すことは少ないですが、体験したことは心の中に深く残っているようです。それは卒業生からの声でわかります。ただの楽しみではなく、普段の学びとつながっているということが大切ですね。

岩﨑:体験から学べることは本当に大きいですが、友だちと共に過ごし、共に学ぶことで得られる絆、自分の得意なことや役割に気づくことが、学び以上に大きいですね。

脇元:私も高校までシュタイナー学園で過ごしましたが、米も家も洋服も自分で作れ、「基本的なことは何でもできる」と思えるようになったことが大きな力になりました。“苦手なことはたくさんあるができないことはない”と思えるようになりました。

<シュタイナー学園校外学習の流れ>

・3年:米づくり
・4年:家づくり、職人体験、郷土学
・6年:鉱物採取、歴史旅行
・7〜8年:パラグライダー、カヌー体験
・8年:サバイバル合宿
・9年:農業実習
・10年:測量実習、職業実習
・11年:福祉実習、航海実習

※校外学習の内容、学年はクラスにより異なります。



教えてください! 校外学習の思い出
*先生方に印象に残っているエピソードを聞きました。

⚫︎6年生の歴史旅行、毎年子どもたちが楽しみにしているのは、宿泊先「矢田寺」のご飯。
手作り2段弁当、手の込んだ精進料理、ほっぺたが落ちる特製カレー(玉ねぎ200個入りです)。毎日心も体も満たされ幸せな日々でした。

⚫︎6年生の歴史旅行で行った奈良公園、来るわ来るわ鹿たちよ!一生懸命描いた大事なメモを大きな鹿に食べられた!友だちと連携プレーで取り返すも、半分しか残らず…。

⚫︎7年生のカヌー体験、はじめてのカヌー、「湖に落ちたらどうしよう…」と不安げな子どもたち。しかし、1時間もしたら…。落ちてもへっちゃら!荒波に向かう。最後は立ち乗り挑戦。何度も落ちて大笑い!大いに楽しみました。

⚫︎9年生の農業実習、お世話になった農家さんとのお別れ会のため夜遅くまで企画を練る子どもたち。2週間の農業実習の思い出を振り返り、ハグを交わし号泣する子が続出でした。

⚫︎11年生の航海実習で駿河湾横断中、思い届いてか10頭近いイルカが帆船の周りを長い時間、歌い踊り伴走してくれました。手で触れそうなくらい近く、驚きと喜びに満たされました。


FUJINO STEINER COLUMN 20期卒業生 石橋初季さん