学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.10.25

暮らし

車で通うということ

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.169 2023.10.25

シュタイナー学園のある藤野から車で約25分。山梨県大月市に移住し、現在は3人のお子さんがそれぞれ高等部・中等部・初等部に通う保護者の高岡浩子さんに、大月での暮らしや学園との関わりについて伺いました。

シュタイナー教育は子どもが生まれる前から知っていました。いつかシュタイナー教育で子育てがしたいと思い、西八王子に勤めていた夫との結婚を機にシュタイナー学園の近くで新居を探しました。藤野は物件が見つからず、最初は隣の上野原市の賃貸住宅へ。理想の家ではなくても、その土地に住んでみると環境や土地柄、自治体の特長などいろいろと見えてきます。結婚して3年ほどで長男が生まれ、次の住まいを探し始めました。 

こだわったのは日当たりの良さ。等高線のある地図を買い、日当たりが良さそうな場所はどこか、シュタイナー学園まで1時間以内で通えるのはどこか、など考えて藤野に限らず近隣へ範囲を広げながら、現地に足を運び空き家を探しました。長男が1歳の頃、大月市に日当たりの良い茶畑付きの中古物件を見つけました。家族でリフォームし、しばらくは作りながら住むという感じでしたが、そこに落ち着きました。 

子どもは幼稚園から藤野のシュタイナー園に通いました。第2子、第3子も生まれ、毎日車で通園・通学してきましたが、大月から藤野までの道は走りやすく、新緑の季節などは本当に気持ち良い道のりです。道中はラジオやCDではなく、みんなで歌を歌っていました。大きくなるとおしゃべりも楽しめますが、子どもたちが小さい頃の歌はとても楽しいひとときでした。真正面で向き合うわけではない車内は悩みや愚痴を打ち明けやすいようで、思春期の子どもには大切な相談室でもあります。車送迎は家族が密な関係を持つ時間になっていると感じます。 

自宅近所に園や学校のお友達がいないのは寂しいかな、と思うこともありましたが、幼稚園の先生から「お友達とは園でたっぷり遊んで、家では外に広がった輪を少しずつ小さくするように、静かに眠りに向かうのがいいのですよ」というお話を聞き、なるほどと思いました。小さい子も静かに集中したい時があると思います。そういう静けさがある暮らしも、大月に住んで良かった点でした。 

シュタイナー学園に子どもが入学してからは、保護者有志による手仕事係に携わっています。親の活動に参加すると担任以外の先生や他学年の保護者とも知り合え、よりよく学園を知ることができます。何か気になることがあった時、いろいろな先生や親から全体的な話を聞ける。こうしたつながりが安心感になっているとも思います。例えばクラスが落ち着かない時期など心配に思う時は、先輩たちの姿を見ると大丈夫だと思える。12年かけて子どもを見守ることができるのもこの教育の良さだと思います。 

生活リズムを整えたり、小さな子どもをメディアから遠ざけたり、シュタイナー教育は決まり事が息苦しいと思われるかもしれません。けれど振り返ってみるとそうしたことは子どもを守る覆いのようなもので、その中ではとても自由でした。子どもにいつ何を与えるか、子どもの欲求にどう応えるか、など子育てでは様々な判断を迫られます。いちいち悩むと大変ですが、ここは守る、という指針があると判断しやすくなり、子どもの前でスッキリした気持ちで過ごせます。むしろ子育てしやすかったと思います。 

子どもは成長すれば、それまで触れていなかったことにも、一歩ずつ自分で外の世界へ出ていきます。でも戻るべき生活のリズムがあると、そこへ戻ってきてまた次の一歩を踏み出せる。守ってきた生活リズムや体験してきた静けさ、そうしたことが子どもの中でも指針となり、それが世界への信頼につながっているなと感じます。これは大人からの大きなプレゼントだったと思います。

お話/保護者 高岡浩子