2024.01.10
「ないからこそ生み出せる」という感覚を育ててくれた
卒業生コラム 第21期生 池辺凜さん (後編)
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.174 2024.1.10
シュタイナー学園を卒業後、東京造形大学でアニメーションを学ばれた池辺凜さん。卒業制作「520」は、大学の大賞をはじめ、さまざまな映画祭で賞を受賞されました。今春卒業し、都内のアニメーション制作会社で働きはじめたばかりの凜さんに、学園時代のこと、シュタイナー教育で育まれたと思うこと、お話をお聞きしました。
高等部では絵を描いたりと、自分の好きなことに夢中になっていたとお聞きしましたが、学園生活で印象に残っていることはありますか?
最後の12年生の1年間です。それまでわたしたちのクラスはマイペースで平和、他学年の生徒から「眠れる獅子」と言われていました。自分たちでもしっくりきて、クラスメイトのLINEのグループ名がいまだに「眠れる獅子」なんですけれど(笑)。
そんな獅子たちが12年劇や卒プロを通して変化し、お互いの信頼もより深くなりました。12年間一緒にいた人たちと最後の1年でより仲良くなるなんて不思議なのですが。卒業プロジェクトでは、はじめてアニメーション作りに取り組みました。「メタファーとアニメーション」というテーマで自分の伝えたいテーマをアニメーションにしていきました。紙に描いてスキャンして…と原始的な方法で作った初めての作品でした。同時に学園時代の美術や工芸で作った作品や、卒プロの作品をポートフォリオにまとめて、東京造形大学のアニメーション専攻をAO入試で受験しました。課題や受験で忙しかったけれど、12年生はとても楽しくもあった1年でした。
そして東京造形大学で専門的にアニメーションを学ばれたのですね。
初めて学園の外に出て、新しい環境での学びでしたが、自分の興味ある学びを深めていけたので、大学生活はとても楽しかったです。大学2〜3年の時にコロナ禍となり、授業もオンラインになったのですが、最初の1年、ふつうに通う大学生活が経験ができたのも良かったです。
卒業制作で制作した作品が大学の大賞をはじめ、一般の映画祭でもたくさんの賞を受賞されたと聞きました。そして卒業され、今はアニメーションの制作会社で働きはじめたそうですね。
卒業制作では「520」というタイトルで、なかなか素直になれない人たちの小さな変化の群像劇を作りました。制作には音楽や声優、色彩設計などで学園時代のクラスメイトにもたくさん参加してもらいました。それぞれの分野で信頼できる多彩な仲間がいたのはとてもありがたいことでした。自分が望んだアニメーション会社に就職は決まっていたのですが、たくさんの賞をいただき、自分の作品をもっと作った方がいいのかな? と迷った時もありましたが、今は学べることを会社で学びながら、自分が作りたいと思うものをじっくり見つめていこうと思っています。
最後に、シュタイナー教育で得たと思うものはなんでしょうか?
わたしはアニメーションを制作していますが、小さい頃から当たり前にメディアを与えられていたら創作しようと思ったかな? と思うのです。メディアに触れるようになったのは大きくなってからですが、毎日の想像力が育まれるような学びは「自分でつくれる」「ないからこそ生み出せる」という感覚を育ててくれた気がします。
そして圧倒的に味方、と思える本当に心おきない仲間たちの存在です。自分を大きく見せる必要もない、安心していられる仲間がたくさんいること。誰とも比べられることがなかったし、比べる必要もなかった、そんな環境の中で生まれた仲間との関係なのかもしれないと思います。
大人になって「成長の記録」(※)を見てみたら、先生方はこんなにも一人ひとり、わたしたちのことを見てくれていたんだ、と改めて思います。先生方や保護者の方々、みんながずっと見守ってくれていたという絶対的な安心感。それがどんな時も絶望的にならないでいられる今の自分をつくってくれたと思えます。
※ 成長の記録:一人ひとりの1年間の学びの様子を文章にした“通信簿”に代わる成長の記録
幼少期から育まれた想像力が花開き、世界にむかって自分の表現はじめた凜さん。これから作りだしていくものが心から楽しみです。
ライター/保護者 中村暁野